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【13】求める体……①
潜入当日、陽向は緊張していた。自分が飲み込むゴクリという唾の音を耳の奥で聞いた。そんな陽向を周防が励ましてくれる。お互いピタっとしたトレーニングウェアに室内用のサングラスを掛けていた。
まずナレッジグループの秘書室長である赤羽がロビーからジムの中へ入ってきた。ちょうどジムの入口にある貴重品用ロッカーに何かを入れて施錠し、鍵を手にした。そのままランニングマシンに向かって歩き、緩やかなテンポでランニングを始める。しばらくするとその隣にハイランドレディの朝井がやってきて、同じようにマシンでランニングを始めた。お互い目を合わせたり、話したりはしない。きちんと他人を装っていた。
「入中、カメラは?」
「大丈夫です。二回目だし」
「そうだな」
陽向は貴重品ロッカーと二人の様子をカメラに押さえた。
二人はしばらくの間、走っていたが、赤羽の方が先にランニングマシンを降りた。タオルで額の汗を拭きながら奥のエアロバイクの方へ向かう。その時、赤羽がマシンの上にロッカーの鍵を置いていった。朝井は周囲に気を配りつつ、その鍵をタオルで自然に持ち上げると、何事もなかったようにロッカーへ向かった。中身を取り出して外へ出る。
「追うぞ」
「はい」
朝井がロッカーへ戻るのを見送る。出て来るのを待って声を掛けた。
「鞄の中身を見せてもらおうか」
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