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【13】求める体……➆

 表面上は穏やかに過ごしながら、陽向の心の中には嵐が吹いていた。  その不安は周防の元婚約者の存在にある。  顔が知りたいと思った。  そんなことを知っても仕方がないのは分かっていたが、どうしても知りたかった。本音を言えばどのくらい似ているのか知りたかった。  似てなかったらいいけど、似てたらやだな……。  やっぱりやめようと思いつつ、気になってしょうがない。  駄目なのは分かっていたが、陽向は周防が寝静まった夜にこっそり起きて、リビングを抜け、本や資料が置いてある部屋に向かった。棚の中はきちんと整理整頓されていて埃一つなく、アルバムを探してみたが、写真の類はなかった。  ――やっぱり駄目か……。  諦めようと思った時、ファイリングされた資料の隙間にどこかの大学の研究論文か学会誌のようなものが見えた。大学名を見ると周防が出た学校名ではなかった。気になって開いてみる。建築系だろうか。『重量コンクリートを用いた遮蔽容器の遮水性能』『周囲振動に対するオフィスビルのモード特性の推定』タイトルの横に顔写真と名前がある。ふと目が止まった。  ――深町日菜子。  写真を見て息が止まった。確かに……似ている。男の自分には似ていなかったが、一つ上の姉ちゃんにそっくりだ。女装している時の自分とわずかに似ている気がした。  髪の毛は肩までの長さだがふわふわのパーマで、目がこぼれそうに大きく、鼻と口が人形のように小さい。繊細で可愛らしいのに、元気で明るい雰囲気があった。この生命力に溢れている感じもどこか自分に似ている気がした。  ――ああ……。  凄く綺麗で可愛い人だ。俺だって好きになる。  きっと本気で好きだったんだろう。好きで、愛し合って、お互いを思い合って。それなのに二十四歳の若さで亡くなった。空の綺麗な夏の日に。  周防はショックで女性恐怖症になって、でも、彼女に似た陽向の治療で病気が治った。彼女に似ていたから治った?  もしかすると周防は、俺を通して彼女を抱いていたのだろうか。  甘い夢想の中で彼女と過ごした日々を思い出していたのだろうか。  陽向を好きになったのも彼女に似ていたから――。  そんなことは思いたくなかったが、周防の本心はどれだけ考えても分からなかった。

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