101 / 110

【番外編】スケルトン・ラブ……⑤

 バドミントンを楽しんだ後、二人は運動広場から公園の西側にある芝生広場へ向かった。  遠くまで見渡せるその芝生広場は、カップルや家族連れで賑わっていた。よちよち歩きの子どもを連れた若い夫婦や仲良く寝転んでいるカップル、宅配ピザを広げている大学生の集団など、皆それぞれの時間を楽しんでいる。 (陽向はさっきのバドミントンでずいぶん汗をかいていたな。疲れてないだろうか?) 「大丈夫です」 「ん? 急にどうした?」 「あ、いえ、なんでもないです」  周防の声があまりにも自然で、思わず心の声に返事をしてしまった。気をつけないと、と自分を戒める。 「この辺でどうですか?」 「そうだな」  周防が用意してくれたレジャーマットを広場の端っこに広げた。芝生の上に二人分の四角いスペースができる。マットの真ん中に弁当を置いて、お茶とお箸の準備をした。 「なんか、いいですね」 「そうだな。晴れてよかったな」 「あ、風だ」  周防がマットの端を押さえてくれる。夏の匂いを含んだ風が半袖の中を通り抜けた。  普段の仕事が忙しい分、こんなふうにのんびりランチできるのが嬉しい。外でご飯を食べるのも久しぶりだ。  二人は弁当を挟んで向かい合って座った。 (それにしても、さっきの陽向は可愛かったな。テンションが上がって、赤い顔でぴょんぴょん跳ねて、小さな体が左右に動く姿がたまらなく――)  ――ん? たまらなく?  そんなところでやめられると結構、気になる。先が知りたかったが続きは聞こえなかった。周防はなんでも復習するタイプなのだと知る。顔を見ているだけでは分からないことがたくさんある。周防の性格が分かって少し嬉しい。 (Repeat:ふふっ……最高だな)  ――リピート?  声は聞こえるがさすがに映像までは見えない。何をリピートしたのだろう。もの凄く気になる。  お弁当の蓋を開けると、陽向の好きなおかずがぎっしり詰まっていて驚いた。鶏の唐揚げに青ネギ入りの厚焼き卵、ブロッコリーとプチトマトのサラダ、じゃがいもとベーコンの塩バター炒めまである。栄養のバランスも彩もよく、周防の愛情の深さに胸が熱くなった。 「凄い豪華だ。こんなにたくさん……ありがとうございます。嬉しいな」 「食べようか? お腹が空いただろう」 「はい。いただきます」  周防がラップで巻いたおにぎりを渡してくれる。陽向はそれを笑顔で受け取った。 (ああ、こんなにも喜んでくれて嬉しいな。早起きして作ってよかった)  おにぎりを食べながら唐揚げに手を伸ばす。どれも美味しくて感動する。陽向は夢中になって食べた。 (可愛いな……おにぎりを食べている口元が可愛い……もぐもぐピヨたんだ) (本当に幸せだ。目の前に愛する人がいて、俺が作った弁当を食べてくれて、笑顔を見せてくれる。自分の人生でこんな穏やかで満たされた日が来るとは思ってもみなかった。愛してる、陽向。そして、ありがとう。いつも一緒にいてくれてありがとう)  ――駄目だ。  周防の心の声に泣きそうになる。  感謝したいのは自分の方だ。  周防はいつも、こんなふうに自分を思ってくれていたのだろうか。  我慢もむなしく陽向の両目から涙がこぼれた。 「うっ……」 「どうかしたのか?」 「……いえ」 (ん? さっきの卵焼きが美味しくなかったのか? どうしよう、困ったな。それとも目にゴミが? なんだなんだ、どうした) 「違うんです」 「え?」 「なんだか嬉しくて……感動してしまって。とにかく、幸せです。今日、凄く楽しいです」 「そうか。俺もだ。また一緒に来よう。これは約束だぞ」 「じゃあ、次は俺がお弁当を作りますね」  周防が慰めるように頭をなでなでしてくれる。陽向は涙を拭いながら頷いた。 (泣き虫ピヨたんか……ああ、なんて純粋で素直なんだろう) (俺が守って、面倒を見て、世話をしなければ) (ピヨたん FOREVER MY LOVE☆) 「そうだ。公園の中にある文化園にはコールダックがいるぞ。次は動物園の方に行ってみるか」 「あ、行きたいです。確かペンギンもいるんですよね」 「水生生物のコーナーは意外と広い。ふれあい広場もある。楽しみだな」  陽向が微笑むと、周防も同じように微笑んだ。  周防の笑顔を見られるのが嬉しくて、聞こえないのは分かっていたが、陽向は心の中でありがとうと呟き返した。

ともだちにシェアしよう!