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【番外編】スケルトン・ラブ……⑥
お弁当を食べ終えてボート乗り場へ向かう。ボートは三種類、手漕ぎボートとサイクルボート、スワンボートがあり、周防と陽向はお目当てのオスのスワンボートを待って乗った。三十分七百円、大人二人と子供二人まで乗れる巨大ボートだ。
船着場から頭を屈めてボートの中に入った。不安定な足元に驚きながら座席へ腰を下ろす。ペダルを漕ぐと派手な音がしてぐんぐん進んだ。
「凄い、楽しい」
「思ったより速く進むな」
「これ、周防さんの勢いが凄いからだ。他のスワンと進みが全然違う」
成人男性二人で漕いでいるからだろうか。オスのスワンボートは仲間をごぼう抜きして池を爆進していた。
「はは、楽しいな」
「後ろに漕ぐと後ろに進む。思ったより機動力があるな。よし、三十分で一周しよう」
ザバザバと音を立てながら進む。ボートの進み具合が珍しいのか陸にいる人たちがスマホで撮影を始めた。
(ああ、楽しいな。初めての共同作業だ。足並みを揃えていこう)
(夢が叶って嬉しい。これで二人は未来永劫一緒だ)
周防の言葉が胸に響く。仕事ではシビアなリアリストなのに、中身がメルヘンチックで本当に可愛い。周防のおかげで可愛いという言葉の意味が広がった気がする。
池の奥まで進んで、一旦止まった。
スワンボートの中で目が合う。
(キス……したいな)
ああ、と思う。
いつも冷静な顔でそんなことを望んでいたんだと思うと、感慨深い気持ちになる。
――俺もしたい。
陽向は軽く身を乗り出して自分からキスした。
周防の唇を掠め取るようにして、元の位置に戻る。匂いと体温だけが、唇の上に印のように残った。
(え?)
(えっ?)
(ええっ?)
ウッドペッカーみたいな声が聞こえる。
(ピヨたんがっ! 俺に! ◎△$♪×¥●&%#?!)
そんなに混乱していても顔は冷静なんだなと感動する。周防は表情筋ゼロのクールな鉄仮面のままだった。
(ああ、もう駄目だ。可愛すぎる。ピヨたんを連れて帰って全力で隠居したい)
「もう一回だけしてもいいか?」
「……はい」
頭の後ろを取られてゆっくりと引き寄せられる。身を乗り出した周防の顔が近づき、優しく口づけられた。
(陽向の唇、柔らかいな……)
(可愛いキス顔だ)
耳を撫でられながら下唇を甘く吸われる。
最後、名残惜しい気持ちを振り払うように頭をぽんぽんされた。
「俺の夢を叶えてくれてありがとう」
「そんな……俺も嬉しいです」
「ずっと一緒にいよう」
幸せだと思う。
陽向が頷くと、冷静な顔の向こう側に初めて、でれでれの溺愛オーラが見えた気がした。
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