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【番外編】スケルトン・ラブ……➆

 ボートを切り返して船着場の方へ戻る。  ほわほわした気分のまま二人でペダルを漕いだ。  半分ほど戻った時、外に異変を感じた。 「あのボート」 「おかしいな」  周防も同じタイミングで気づいたようだ。  池の真ん中あたりで不自然な動きをしている手漕ぎボートが見える。声は聞こえないがボートの上にいる女性が両手を大きく振って何か伝えようとしているのが分かる。幼い子どもと二人で乗ったのだろうか。ワンピース姿の女の子が女性の足元で泣いているように見えた。  ボートの揺れが激しい。目を凝らすとオールが片方なくなっているのが分かった。  船底が水没したのかもしれない。  船着場にいるスタッフや周囲を遊泳しているボートはまだこの異変に気づいてないようだ。  ――助けないと! (危ない、助けないと!) 「行きましょう」 「操舵は俺がやる。二人で力を合わせて、全速力で漕ごう」 「はい!」  周防がボートについているハンドルを操作してくれる。操縦は周防に任せて陽向は力の限りペダルを踏んだ。  船体がザバザバと音を立てながらボートに近づいていく。高い波が起こらないように気をつけながらスワンボートを女性のボートへと寄せた。 「大丈夫ですか?」  周防が声を掛けると女性は泣きながら頷いた。周防がボートに向かって手を伸ばす。 「お子さんをこちらへ」 「お願いします」  先に子どもを助ける。陽向は周防から女の子を受け取り、自分の膝の上に乗せた。ボートを移った女性はそのまま周防の隣に座った。  船着場に到着するまで二人は混乱していたが、陸に上がるとようやく落ち着きを見せた。女性は周防に向かって何度も頭を下げ、礼を言った。 「あの、本当にすみません、ありがとうございます。連絡先を――」 「いえ、とにかく怪我がなくてよかったです。お子さんも大丈夫そうだ」 「ホントに……すみません……」  女性は涙を拭いながら慌てた様子で鞄に手を入れた。名刺を取り出して周防に渡す。 「私は吉祥寺にあるアトリエで働いているんです。人形作家なんですけど、もしよければお礼をさせて下さい」  周防は名刺を受け取ったが、女性の申し出を宥めるように断っている。陽向はこっそり女の子に話し掛けてみた。 「お名前は?」 「ゆじゅき」 「ゆずきちゃんか。何歳?」 「よんさい」  女の子は手を裏向けたまま四のポーズを作る。その仕草が凄く可愛い。 「あ、これまろたんだね」  女の子のポーチにまろたんのぬいぐるみがぶら下がっているのが見えた。陽向はそれを指差した。 「うん。これまろたん。すごくかわいいの。しろくてちっさいの」 「ホントだね。白くて小さくて、可愛い」 「これままがつくったんだよ。すごいでしょ」 「へぇ、凄いなあ。ゆずきちゃんのママ、上手だね」  陽向が褒めると、女の子はまろたんを撫でながら得意げな顔で頷いた。

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