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【番外編】スケルトン・ラブ……⑨
浴室のドアの前で周防が服を脱がせてくれる。
「陽向、バンザイして」
「うっ……」
「どうした? バンザイだ」
「もう……」
半袖シャツのボタンを一つ一つ外されて、中に着ていたTシャツも脱がされた。
周防は多分、これを楽しんでいる。
訊かなくても分かるが、される方は本当に恥ずかしい。最終的に脱ぐにしても自分で脱ぎたい。
――ずっと見てるし、声が……。
(陽向を脱がせるのは楽しいな☆)
(バンザイの時の無防備な顔が可愛い)
――やっぱり……。
シャツで一瞬、周防の顔が隠れて、次に見える時に顔が近づいているのが、もう耐え切れないほど恥ずかしい。アップで見る周防の顔は本当に男前でうっとりするが、その距離でいると無意識のうちに心拍数と体温が上がる。いつまで経ってもこのドキドキに慣れることはない。
「次はベルトだな」
「い、言わなくていいです」
ベルトのリベットを外されてカーゴパンツを下ろされる。下着一枚になると周防が陽向の前に跪いた。手を肩に置くよう促される。つかまるとボクサーパンツを膝まで下ろされ、片足ずつ抜くように指示される。自分が幼い子どもにでもなったみたいで羞恥心が爆発しそうだ。
性器と周防の顔が近い……。
(ここはちゃんと大人で可愛いな)
ああ、もう……。
そんなことを心の声で言わないでほしい。恥ずかしくてたまらない。
「俺も脱がしていいですか?」
軽い意趣返しのつもりで尋ねると、周防が嬉しそうな顔をした。自分より背の高い周防のシャツを脱がすため、背筋をくいっと伸ばしてボタンに手を掛ける。どうしても周防を見上げる形になってしまうのが照れくさい。
(その上目遣い……心臓止めるさんだ)
「周防さんの気持ち……少しだけ分かります」
「ん? なんだ?」
「相手の服を脱がすのって、凄く愛おしい作業ですよね。好きな人の世話をするようで、でも、少しだけ自分のためみたいな」
「可愛いことを言う。だが、俺の全部は陽向のためだ」
「なんでそんなに優しいんですか?」
「好きだからだ」
(大好きだ)
心の声の方がずっと大きいことを知って、目の奥が熱くなる。嘘のない周防の気持ちに感激した。
「俺も好きです」
大好きだと続ける。
そのまま周防のシャツを脱がして、スキニーのフロントボタンに手を掛ける。ボトムを下ろすと見事な体が現れた。この距離でも高い体温と汗の匂いを感じる。
フェロモンなんだと思う。
甘くてとろけそうになるのに、その奥に野生の鋭さが潜んでいて、雄の色香に絡め取られた瞬間、もう動けなくなる。
ただ隣にいるだけで惹かれて、どうしようもなくなって、この体に抱かれたいと思う。
――周防が好きだ。本当に好きだ。
「ん? ピヨたんが元気になってるぞ」
「周防さんもですけど?」
「可愛いな」
周防の下着を下ろすと質量のあるペニスが飛び出した。その勢いに目を瞠る。
「こんなんじゃ、お風呂に入れないです」
「大丈夫だ。陽向が洗い終わるまで〝鋭く〟待っている。俺のここは前向きの〝待て〟ができる」
「ポジティブなのは知ってますけど……わっ!」
不意にぎゅっと力強く抱き締められる。息が止まって、身動きが取れなくなった。
「周防さん?」
わずかな沈黙が訪れる。
(ああ、陽向だ)
――あ……。
溜息まじりの声だ。
(陽向は温かいな……)
(陽向は小さいな……)
(陽向は柔らかくて、甘いな……)
本当ならその声は聞こえない。ただ、静かに抱き締められているだけの時間。
声が聞こえて初めて、周防がこんなにも自分を愛おしく思ってくれていたのだと知る。
――周防さん……。
そのままそっと頬ずりされる。
わずかに生えた髭の感触さえ心地いい。胸がいっぱいになる。
甘い幸福に目を閉じてうっとりしていると声を掛けられた。
「苦しいと言って両手をバタバタしないのか?」
「いつもは……そうですけど」
「バタバタする陽向も好きだが……なんだか今日は凄く可愛いな」
抱き締められる力が強い時は、周防の腕の中で悶えたりしていた。けれど今日は動くことさえできなかった。
嬉しくて。
周防の声と行為が嬉しかった。
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