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「ちょっとみるだけだ。さわられるのが怖ければ、殴られたところを自分で見せてみろ」    言葉はぶっきらぼうで顔も怖いが、声は静かだった。    和希は黙って、堀の言うとおりにした。  いくつか質問されながら、息を吸ったり吐いたりする。  慎一が横から心配そうに見ていた。 「頭はたんこぶができてるくらいだな。腹には痣が出るかもしれんが……」  喧嘩慣れしてなさそうだから、殴られたショックのほうが大きかったのだろうと堀は言った。 「もしまた吐くようなら、医者に行け。吐き気がないなら、ほかはたいしたことないだろう」 「ありがとう。よかったな、和希」  いきなり下の名前で呼ばれてドキッとする。 「あの、ありがとうございます。……沢村さんも、ありがとう」 「慎一でいいよ。みんなそう呼ぶ」  にこりと笑顔を向けられて、素直に頷く。しんいち、と口の中で呟くと、慎一は嬉しそうに笑みを深くした。 「落ち着くまで、座って休んでて。家、どこ?」 「川北町《かわきたちょう》。二丁目……」 「すぐそこだな。なら、ゆっくりしていけばいいよ。あ、何か飲めそう?」  勝手に連れてきたから奢り、と言われて、和希は慌てた。 「助けてもらった上に、そんな……」 「作らせてやりな」 「そうそう。俺たちが水割りしか飲まないから、慎一が飽きてるんだよ」  常連客が声を揃えて言い、慎一も「そういうこと」と笑った。 「飲めそう? 吐きそう?」 「は、吐かない、と思う。たぶん、もう、平気……」 「何にする?」  バーなどという場所には来たことがないし、酒の種類もろくに知らない。  正直に告げると「じゃあ、魔法のカクテルを作ってやろう」と言って、慎一は棚の瓶に手を伸ばした。

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