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【2】-2
「ちょっとみるだけだ。さわられるのが怖ければ、殴られたところを自分で見せてみろ」
言葉はぶっきらぼうで顔も怖いが、声は静かだった。
和希は黙って、堀の言うとおりにした。
いくつか質問されながら、息を吸ったり吐いたりする。
慎一が横から心配そうに見ていた。
「頭はたんこぶができてるくらいだな。腹には痣が出るかもしれんが……」
喧嘩慣れしてなさそうだから、殴られたショックのほうが大きかったのだろうと堀は言った。
「もしまた吐くようなら、医者に行け。吐き気がないなら、ほかはたいしたことないだろう」
「ありがとう。よかったな、和希」
いきなり下の名前で呼ばれてドキッとする。
「あの、ありがとうございます。……沢村さんも、ありがとう」
「慎一でいいよ。みんなそう呼ぶ」
にこりと笑顔を向けられて、素直に頷く。しんいち、と口の中で呟くと、慎一は嬉しそうに笑みを深くした。
「落ち着くまで、座って休んでて。家、どこ?」
「川北町《かわきたちょう》。二丁目……」
「すぐそこだな。なら、ゆっくりしていけばいいよ。あ、何か飲めそう?」
勝手に連れてきたから奢り、と言われて、和希は慌てた。
「助けてもらった上に、そんな……」
「作らせてやりな」
「そうそう。俺たちが水割りしか飲まないから、慎一が飽きてるんだよ」
常連客が声を揃えて言い、慎一も「そういうこと」と笑った。
「飲めそう? 吐きそう?」
「は、吐かない、と思う。たぶん、もう、平気……」
「何にする?」
バーなどという場所には来たことがないし、酒の種類もろくに知らない。
正直に告げると「じゃあ、魔法のカクテルを作ってやろう」と言って、慎一は棚の瓶に手を伸ばした。
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