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 和希は店内を見回した。  ボックス席が三つとカウンターが一つあるだけの小さな店だが、ボックス席は三つとも埋まり、十人ほどの客が水割りやビールを飲んでいた。    カウンターには和希一人。  慎一のほかに従業員はいなかった。  レトロと表現したくなる古びた内装は、デザインして造られたというより長い年月をかけて今の状態に落ち着いたように見えた。 「はい。どうぞ」  目の前に筒形のグラスが置かれた。淡いブルーの液体が照明の光を反射してキラキラきらめいていた。 「わあ……」 「一番弱いやつだから、安心して」  目を上げると、明るい笑みが返された。  少し長めの茶色い髪。その下の顔は、すっきり整っていて若い。  痩せているが骨格がしっかりしていて、なんでもない白いシャツがプロの仕事着のように見えて大人っぽかった。 (慎一は、いくつなんだろう……)  じっと見つめていると、またにこりとやわらかい笑みを向けられた。 「どうかした?」 「な、なんでもない」  首を横に振って、淡いブルーの液体に口をつける。  すっきりとした甘さとかすかな苦みが広がり、柑橘系のさわやかな香りが鼻孔を通り抜けた。 「おいしい……」  ふわりと気分が軽くなる。 「慎一って、学生さん?」 「違うよ。どうして?」 「若く見えるから。いくつなのかなぁと思って……」  魔法のお酒が和希の舌を軽くしていた。 「和希は? それこそ学生でも通りそうな、やけに小綺麗な顔してるじゃないか。でも、スーツが地味だから、堅い仕事かな」  二十八歳、公務員。  ふだんなら絶対に答えないような個人情報を簡単に口にしていた。

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