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【3】-1

 眩しさに瞼を開けると、見慣れない男の顔が目の前にあった。  ビクリと身体が強張るが、すぐに相手を認識して再び目を閉じた。 (ああ、慎一だ……)  半分眠ったまま、あれ……? ここはどこだっけ? と考える。  どうやらどこかに泊まったらしい。人生初の無断外泊だ。年齢を考えたら、いささか遅すぎ……。  直後、和希は飛び起きた。 「嘘……!」  自分が他人と同じベッドで眠ったという事実に気づき、雷にでも打たれたように驚く。  これこそ人生初の出来事だ。たださわるだけでも怖いのに、誰かのそばで眠るなんて、考えただけでぞっとする。  ぞっとする。  はずなのに……。 (普通に寝てた……。しかも、かなり、ぐっすり……)  記憶は曖昧だったが、帰らなくていいのかと何度も聞かれ、帰らないと言い張ったのは和希のほうだった気がする。  呆れた慎一に店の上の自宅まで運ばれたのだ。確か、慎一の背中に背負われて。  信じ難いことだが、その間、和希はすっかり安心しきっていた。 「嘘だ……」  借り物の少し大きなスウェットの上下を所在なく握りしめ、朝日の差し込む部屋で隣に横たわる男の寝顔を見た。  鼻筋が通っていて頬の肉が少ない。そのせいか、全体的に硬い印象を受けるが、とても綺麗な顔だ。  睫毛が長い。  ぼうっと見とれた後、枕元の時計で時刻を確かめた。午前八時を回ったところだった。  土曜日なので仕事は休みだが、ふだんならとっくに起きて部屋の掃除をしている時間だ。  公務員一家である日比野家の生活は、常に規則正しく、単調で、変化に乏しい。見知らぬ家のベッドの上で、昨日出会ったばかりの男と一緒にいるという状況は想定外である。 (どうすれば……)    途方に暮れつつスウェットの中を覗くと、腹に痣が出始めていた。頭のこぶをさわるとまだ痛い。  さわらなければ気にならない程度なので、そっとしておくことにする。  しばらく慎一の顔を見ていたが、起きる気配はなかった。すうすうと安らかな寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っている。  何時まで店を開けていたのかわからないので、無闇に起こすのは悪い気がした。  かといって、黙って立ち去るのもどうかと思う。  思案の末、自分でも意外なことに、和希は再びベッドの中にもぐりこんだ。 

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