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【3】-4
ほとんど酒を飲んだことがない。飲む機会そのものがなかったのだと、ぼそぼそ言うと「ちゃんと確かめなかった俺が悪い」と慎一は肩を竦めた。
「プロなのに。ごめんな」
和希は慌てて首を振った。慎一に謝らせることではない。
「昨日から、本当にありがとう。いっぱい助けてもらって……。あの……」
誰かに頼ることや助けられることに慣れていない和希は、こういう時、どう感謝を示せばいいのかわからなかった。
「お礼って、どんなふうにしたらいいかわかんなくて、ごめん……。でも、ほんとに……」
「ちゃんと『ありがとう』って言っただろ?」
「でも、家にまで、泊まらせてもらって……」
「まあ、酒には気をつけような」
「……うん」
顔を赤らめてうつむくと、慎一が笑う。
こぶを器用によけながら和希の髪をくしゃりと撫でた。指先が耳に触れて、心臓がドキッと跳ねる。
嫌ではなかったが、頬が熱くなった。無意識に手を当てて、ふと、いつも顔を隠しているアイテムのことを思いだした。
「眼鏡……」
「ん? 眼鏡?」
「どこに置いたかな」
あたりを見回していると、慎一が不思議そうな顔をした。
「俺が会った時には、してなかったぞ」
「え……」
記憶をたどり、暴漢に襲われた時に外されたのだと思いだした。
「あの時だ」
「見えないんじゃ困るだろ?昨日の植え込みのあたりか?」
すぐ探しに行こうと言う慎一を、和希は止めた。
「だいじょぶ。視力は、いいから……」
人と距離を取りたくて眼鏡で顔を隠している。少し言いにくい理由を告げると、慎一は軽く頷いた。
「じゃあ、探しに行くのは朝メシの後でいいな」
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