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【4】-2

「あ。昨日の猫……」 「猫?」  慎一が隣に来て植え込みの下を覗いた。  やせこけた身体に緊張を漲らせて、白い子猫が和希と慎一を見つめ返した。青い目には警戒と怯えの色が強く滲んでいる。 「怖いんだね」  お腹が空いているだろうに。  空腹で、誰かに頼りたいのに、怖くてできないのだ。近づきたくても、近づけない。  和希と同じ……。 「かわいそうに……。昨日、この子が助けてくれたなかったら、どうなってたか……」  子猫が音を立てたから、二人組は逃げていったのだ。 「人にさわれないって、どういうこと?」  唐突に聞かれて、和希は顔を上げた。 「昨日、言ってただろ。モテないし、彼女もできない。人にさわれないからって……。さわったり、人にさわられたりするのが、怖いの?」  うつむいて、白い猫を目で追う。 「怖い……」  誰かにさわるのも、さわられるのも。  誰にも言えなかった言葉が零れ落ちる。 「怖い……。だから、結婚とか、無理なんだよ…。女の人と付き合うこともできないんだから……」  好きだと告白されて付き合っても、ひと月も経たないうちに相手から別れを切り出された。  手をつなぐことすら拒む和希に、そんなに嫌なら最初から断ってくれればよかったのにと、傷ついたように言われた。 「赤いスイートピーの人って、あだ名がついてたんだ」  高校を卒業する日に知らされた切ない陰口。
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