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【5】-2
共有財産を処分し、自宅の売却を不動産屋に依頼し、それぞれ別の新居を見つけて引っ越しを済ませた二人は、ある日「結婚する時にでも使いなさい」と、封の付いたままの現金をポンとダイニングテーブルの上に置いた。
姉の結婚式で使ったのと同じ額だと言って、それぞれ二百万ずつ。「生前贈与は税金が高い」と和希が呟くと、すぐにそれを引っ込めた。
あ、と思わず声が出た。
どのみち本を読むくらいしか趣味のない和希に、金の心配はいらないだろうと二人は言い、昔から和希は欲がない、張り合いもなかったが楽だったと、やけにしみじみと語り合っていた。
和希にも欲しいものくらいあった気がする。
それが何なのか、今ではもう、はっきりとはわからないけれど。
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