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【6】-2

「飲む前に、何か食べる?」 「何があるの?」  簡単なものしかないと慎一は言ったが、日替わりのつまみはそらまめのチーズ焼き、サラダはカプレーゼ、あとはパスタや軽食が数種類と聞いて、十分だと思った。  ついでに食事も済ませてしまおうと考えて、文字だけ並んだメニューを見せてもらった。 「カプレーゼと和風パスタをお願いします」 「了解」  手を動かしながら、ほかの客はたいてい食事を別のところで済ませてくる。たまに早い時間に顔を出す常連客のために、簡単なメニューを用意しているのだと慎一が教えた。 「あれ、この前の兄さんかい?」  パスタにフォークを入れたところで、入ってきたばかりの客に声をかけられた。  身なりがよく、そのわりと気さくな雰囲気の初老の男性で、金曜日の夜、堀と同じテーブルにいた人だとわかった。 「眼鏡だと感じが変わるなぁ。せっかくイケメンなんだから、コンタクトにすればいいのに。な、慎一」  ポン、と両方の肩に手を置かれて、思い切り飛び上がった。  男が驚いてのけぞった。 「ど、どうした、兄さん?」 「な、なんでも……。ちょっと、ビックリして……」  ボトルを手にした慎一が「岩田さん、気やすくさわらないでね」と笑う。 「酒とつまみ、いつもの感じでいいの?」 「ああ。ボトル、まだ残ってるよな」 「今日の分くらいはね」  岩田と呼ばれた男は奥のボックス席に向かった。  ほかに連れが二人いて、慎一がおしぼりと、グラスを三つ、手早く用意して運んでいった。  すぐに次の客が来て、同じような言葉を交わしてボックス席に座る。  人数分の酒とつまみを慎一が運んでいくと、客は慣れた様子で飲み始めた。

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