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【6】-3
「後まわしにして、ごめん」
酒を作り始めた慎一の手元をじっと見ていた。
「色が薄いし、味も少し違うよ」
ほとんど氷とグレープフルーツジュースだと言って、前回より淡い色のグラスを和希の前に置いた。
「このくらいから慣れていけば?」
「うん。ありがと」
淡いブルーのカクテルを、和希はゆっくりと喉に流し込んだ。
気持ちがすっとほぐれてゆく。
少しふわふわするが、意識がなくなるほどではなかった。
このくらいから、少しずつ慣れていけばいいのだと思った。
また入り口の扉が開いて、慎一は和希の前から離れていった。料理の注文があったり、ボトルや氷の追加があったりして休みなく動いている。
店は思ったより繁盛していた。常連ではない客も時々来るようだった。
カウンターに人が座るのを見て、和希は席を立った。
「ご馳走様」
「また、来いよ」
会計をしながら、慎一が軽く指にふれた。顔を上げると「来るだろ?」と綺麗な笑顔を向けられる。
和希は素直に頷いた。
家までの短い坂を登りながら、ふわふわした頭で夜空に浮かぶ月を見上げた。どこかぼんやりとした春の月に呟く。
「ほんとに、魔法のお酒だ」
軽く指にふれられた時、少しも怖くなかった。トクンと心臓が小さく鳴ったが、嫌な感じではなかった。
「少しずつ、慣れていけるかな……」
酒にも、人の手にも……。
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