22 / 74

【6】-3

「後まわしにして、ごめん」  酒を作り始めた慎一の手元をじっと見ていた。 「色が薄いし、味も少し違うよ」  ほとんど氷とグレープフルーツジュースだと言って、前回より淡い色のグラスを和希の前に置いた。 「このくらいから慣れていけば?」 「うん。ありがと」  淡いブルーのカクテルを、和希はゆっくりと喉に流し込んだ。  気持ちがすっとほぐれてゆく。  少しふわふわするが、意識がなくなるほどではなかった。  このくらいから、少しずつ慣れていけばいいのだと思った。  また入り口の扉が開いて、慎一は和希の前から離れていった。料理の注文があったり、ボトルや氷の追加があったりして休みなく動いている。  店は思ったより繁盛していた。常連ではない客も時々来るようだった。  カウンターに人が座るのを見て、和希は席を立った。 「ご馳走様」 「また、来いよ」  会計をしながら、慎一が軽く指にふれた。顔を上げると「来るだろ?」と綺麗な笑顔を向けられる。  和希は素直に頷いた。  家までの短い坂を登りながら、ふわふわした頭で夜空に浮かぶ月を見上げた。どこかぼんやりとした春の月に呟く。 「ほんとに、魔法のお酒だ」  軽く指にふれられた時、少しも怖くなかった。トクンと心臓が小さく鳴ったが、嫌な感じではなかった。 「少しずつ、慣れていけるかな……」  酒にも、人の手にも……。

ともだちにシェアしよう!