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【8】-2

「ネット、便利だよね……」  頷きながら、自分もいろいろ調べたなと思った。 「どうして人にさわったり、さわられたりするのが怖いのか、ずっとわからなかったんだ。ネットで調べたら似たような人がいて、自分だけじゃないんだって思ったら、ちょっと気が楽になったけど」  正式な診断を受けたわけではないから確かなことは言えないが、接触恐怖症というものがあるらしい。  四角い端末の中の手記を読んでいくうちに、思い当たるものにいくつか出会った。  和希の一番古い記憶は、母に甘えようして抱きつき、厳しく叱られたというものだ。似た経験から接触恐怖症になったという人が何人かいて、それが全てではないだろうが、参考くらいにはなる気がした。 「あとは、親以外の人にベタベタさわられるのも、嫌だったな」  可愛いと言いながら手を伸ばしてくる大人たちが怖かった。  親に抱かれ慣れていない和希にとって、自分の倍以上ある大きな手は恐怖の象徴でしかなかった。 「そういうのが、いろいろ積み重なって、人にさわるのが苦手になったのかも。素人判断だけど」  和希が生まれて半年で職場に復帰した母は、全く畑違い部署に異動になって余裕がなかった。役所仕事は楽だと思われがちだが、短い期間で異動になることがあり、慣れるまでが結構きつい。  育児との両立で、母は疲れていたのだろう。  父は「イクメン」などという言葉も概念もない時代の男で、当てにならなかったのだと思う。 「でも、母さんや父さんが悪いわけじゃないんだよ。いろんなことが重なって、なんとなくこんなふうになっちゃっただけで……」 黙って聞いていた慎一は、膝の上のみるくを抱き上げて言った。 「親に抱きしめてもらえなくて、知らない大人にベタベタさわられたら……、そりゃあ、嫌だよな。気持ち悪くて、怖かっただろうなと思うよ……」  白い小さな背中を撫でて「なぁ、みるく」と同意を求める。わかっているのかいないのか、みるくは「にゃあ」と鳴いて返事をした。 「みるく、一人前だな」  和希が耳の後ろを撫でてやると、みるくはゴロゴロと喉を鳴らして目を細めた。 「猫は怖くないんだな」 「小さいし、何回かさわったことがあるからね」 「人にさわるのに慣れていないだけなら、酒と同じで、少しずつ慣れていけばいいのかもな…」

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