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【9】-3

 首をかしげる慎一に、「適当だな」と文句を言いながら、どこかで嬉しく感じている自分に気づいて、なんだか慌てた。 「和希、赤くなってる」 「べ、別に、赤くなんか……」 「酒のせいじゃないよな。それ、お冷だし」  慎一がにやりと笑う。 「もしかして、そういう方向でも検討しちゃっていいわけ?」 「そういう方向ってどういう方向だよ?」  すっと長い指が伸びてきて、和希の頬を撫でた。いつもより、だいぶゆっくりと。 「こういう方向?」  息が止まる。 「な、な……?」  顔が真っ赤だ、と笑う慎一に拳を振りあげて抗議する。 「な、なんだよぉ、からかうなよな」 「別に、からかってないよ。新しい可能性を加えただけで。実を言うと、最初からけっこうタイプだと思ったんだよな」 「はぁあ?」 「まあ、そっち方面はおいおい相談するとして、とりあえず、候補として考えてみてよ」  ぽんと和希の頭に手を載せた。  そっち方面てどっち方面だよ、と思うが、和希が口を開く前に、カウンターの端から例の女性が慎一を呼んだ。  長くなりそうな予感がして、この日はそれで帰ることにした。和希が会計をする間も、女性はずっと慎一の動きを目で追っていた。

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