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【10】-3
「岩田さんたちの仲間に入るくらいなら、まあいいんじゃない?」
確かにそのくらいが安心かもしれない。
「じゃあ、そうする」
「子どもの時は? 体育とか、いろいろあっただろ?」
「頑張ってやってたよ。我慢すれば、なんとかやれたし。でも、運動会の組体操で……」
思い出して切なくなった。
「ビクビクしすぎて失敗ばかりしてたら、組から外されて、合図の笛を吹く係にされた」
「笛……」
顔を隠すように、慎一が下を向いた。
深く同情してくれたのかと思ったが、よく見たら肩が小刻みに震えている。
また、ツボに入ったな、と思った。
「笑うの、無理に我慢しなくていいから」
「悪い。……でも、赤いスイートピーの話といい、当時はきっと辛かったんだろうなと思うのに、なんか、様子が浮かぶと……」
ぷふふっと笑う慎一を、少し恨めしく思いながら睨む。
「こっちは、泣きそうなくらい切なかったんだからな」
「うん。可哀そうだなと、思う。思うんだけど…、その時の和希の顔が、まざまざと浮かんで……」
口を覆って笑い続けている。呆れて何も言う気になれなかった。
「なんていうか、可哀そ可愛い」
「カワイソカワイイ? 何、それ」
「可哀そうなんだけど、可愛いんだよ。なんていうか、愛しい」
愛しい。
ちょっとドキッとする。
「いずれにしても、今となっては、懐かしくも微笑ましい思い出なのでは?」
笑って言われると、そんなふうに思えてくるから不思議だった。
組から外れてほっとしながらも、どこかで自分を恥じていた小学生時代のことも、卒業式の後で聞かされた切ないあだ名のことも、みんな過ぎたこと、遠い思い出の中の出来事だ。
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