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【10】-4

「でも、これからも、そういう闇の歴史を密かに積み重ねていくんだよ……」  直近の未来で言えば、三十歳童貞魔法使い説だろうか。 「大丈夫。なおるよ」  席を立ってきた慎一が、「ほら」と言って和希をすっぽり包み込んだ。 少しも身構えることなく、和希は素直に慎一の腕の中に包まれた。  慎一の身体だけは怖くない。すごく安心する。  慎一の腰に手を回し、ほっと息を吐いて、目を閉じた。慎一の匂いを胸いっぱいに吸い込む。 「……和希」  視線を感じて見上げると、じっと顔を見つめている慎一と目が合った。 ドキッと心臓が跳ねて、頬がかぁっと熱を持つのがわかった。 「そこで赤くなるなよ」 「だ、だって……」  和希を椅子から立たせて、慎一は抱く力を強くした。ぎゅっとされるとドキドキが速くなるけれど、それも含めて嬉しかった。  ぴったりと身体を押し付けて、和希も慎一を抱き返す。 「……だから、和希」 「え、何?」 「例の『そういう方向』の件ですけど……」  もぞっと慎一が身じろいだ。 「俺、ちょっと、ヤバいかも……」 「何が?」 「理性が……」 「理性?」  顔を横に向けて「思った以上に……」と呟き、「俺の前でだけ、眼鏡外してるとか……」とさらにぼそぼそ呟き、はあっと、大きなため息を落とした。 「ああ、だめだ。ちょっと、タイム」  慎一に身体を離されて「えー」と抗議しながら抱きつくと、ポカッと頭を叩かれた。 「何すんだよ」 「察しろよ」  慎一の顔が赤かった。腰に視線を落として、くるりと背中を向ける。 (あ。ジーンズが……)  心なしか、もっこりとしていたような……。  慌てて視線を逸らした。  和希の顔も、たぶん赤かった。 (なんで、もっこりするんだよ。そういう方向って、どういう方向だよ……)  考えるほどにドキドキが激しくなる。  椅子に飛び乗ったみるくが「にゃあ」と鳴いて、和希と慎一を交互に見ていた。

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