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【11】-1

 翌日も「暇なら、来いよ」と言われて、店の二階の家に行った。  ちょっと慎一に頼りすぎだろうかと不安になったが、会いたい気持ちのほうが勝ってしまった。 「この前の話だけどさ、ちょっと真面目に考えてみない……?」  みるくに猫じゃらしを向けながら、慎一が言った。  毛足の長いラグの上で、白い子猫はジャンプをしたり、猫パンチをしたりしながら、くるくると忙しく回っている。  慎一が淹れてくれた牛乳たっぷりのココアを口に運びながら、和希は思い切って聞いてみた。 「ここって、慎一の持ち物なの?」 「この建物のこと?」 「うん。勝手に人を住まわせて、大丈夫なの?みるくもだけど……」 「ああ。そういう意味なら、大丈夫。一応、俺のものってことになってるから……」  先代が遺してくれたのだと慎一は言った。  先代という呼び方は、岩田も使っていた。下の店とこのビルのオーナーだった人らしい。  すでに他界していることが、言葉のニュアンスから察することができた。  あまりモノの多くないシンプルな生活空間には、椅子や普段使いのマグカップ、クッションなど、二人分の生活の気配が残っている。  先代というのは慎一の父親なのだろうか。いつ頃、亡くなったのだろう。母親は……?  頭の中だけで問いを重ね、黙ってココアをすすっていると、「先代は、俺の恩人」と慎一が言った。 「恩人で、師匠。あの人のおかげで、俺は今、ここにいる」 「お父さんとは、違うの?」 「違う。拾われたんだ」  意味を掴みかねていると、言葉のままだと言った。 「みるくや和希を拾った、あの場所で」  先代の名は日水祐介(ひみずゆうすけ)といい、いろいろあって慎一を拾い、面倒を見てくれたのだと言った。 「いろいろ……」 「まぁ、いろいろ」  詳細はいずれな、とおだやかに笑って、「縁だったんだってさ」と慎一は続ける。 「縁があったから、俺は日水さんに助けられたんだって」  そして、縁や恩は日水に返すのではなく、慎一が誰かを助けられる時が来たら、その人に返せと日水は言ったらしい。 「あ。だから、みるくを拾った時……」

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