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【11】-2
縁があったな、と慎一が言ったのを思い出した。
ふと、もしや自分もかと思い聞いてみた。慎一が頷いた。
「たまたま通りかかって、これも何かの縁かなと思った。あのまま置いてって、何かあったら、寝覚めが悪いし」
「じゃあ、僕も先代の日水さんに感謝しなくちゃ」
慎一はにこりと、いつものように笑った。
「でも、慎一。その勢いで人に部屋まで貸してたら、大変なことになるよ?それに、この先、慎一に彼女とかできたらどうするの?僕が一緒に住んでたら、困るんじゃないの?」
その時になって出ていけと言われるのを想像すると、なんだかとても切ない。
けれど、慎一はきっぱりと言った。
「彼女は、できない」
「そんなわけ……」
和希が全部言う前に、慎一の手が和希の頬に触れた。ドキッと心臓が大きく跳ねた。
「彼女ができる予定はないよ」
抱き寄せられて、またドキドキした。
「だから、そういう方向も込みで、考えてもらおうかなと思って」
「そういう方向……」
「別に、美形好みでもなかったんだけどな……」
何かぼそぼそ呟いて慎一がため息を落とした。
「わりと好みのタイプだとは思ったけど、こんなにツボるとは思わなかった。自分にしか懐かないって……、なんなの?」
「み、みるくのこと?」
「誰が、みるくの話をしてるんだよ」
いや、してたでしょ。
「だけど、和希にとってはどうだろう……」
「僕……? 僕は……」
部屋は早急に探さなければいけないし、もし、本当に慎一の家にいていいのなら、先々の不安、慎一に彼女ができた時の不安……がないわけではないけれど、和希にとっても、とても嬉しい選択肢な気がする。
「和希は、どっち?」
背中を撫でながら聞かれて、どっちとは?と首を傾げた。
突然ぎゅっと抱きしめられて、心臓が飛び出しそうになる。無意識のうちに、まるで助けを求めるように、両手を慎一の背中に回していた。
抱き返されると気持ちいい。とても、安心する。
「和希……」
少し身体を離されて、正面からじっと顔を覗き込まれた。
やっぱり綺麗な顔だなと、じっと見つめ返していたら、その顔が近づいてきて、唇が和希の頬にふれた。
目をいっぱいに見開いて、それを受け止めた。
(ほ、ほっぺたに、キスされた……?)
「気持ち悪かった?」
気遣うように聞かれて、和希はふるふると首を振った。
「もっと、違うところにキスしても、平気?」
驚いて、思わずもう一度、横に首を振った。
「嫌だってこと?」
「ち、違……。わ、わから、ない……」
かあっと赤くなる顔をうつむかせると、慎一がそっと髪を撫でた。
「キスより先のことも、したいって言ったら……?」
心臓がひっくり返る勢いで跳ねる。赤い耳たぶに吹き込むように「そういうことも含めて、一緒に住むことを考えてみてほしい」と慎一は言った。
「言ってる意味、わかる?」
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