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【12】-4
和希は慎一が好きだ。
気が合うし、一緒にいて楽しい。何より、そばにいても怖くないし、さわっても嫌ではない唯一の相手で、たぶん、今までで一番仲よくなった友だちだ。
そう。友だちだと思っていた。
(でも……)
頬にキスをされても嫌ではなかった。ふれられるとドキドキする。
『もっと、違うところにキスしても、平気?』
突然、昨日の言葉を思い出し、ドキドキが速度を増した。
『キスより先のことも、したいって言ったら…?」
「ああああっ!」
「ど、どうした? 和ちゃん」
顔が熱い。心臓がおかしい。言っている意味が分かるかと聞かれて導き出した解釈は、間違いではなかったかもしれない。慎一は…。慎一は…?
なんだか、急に気持ちがそわそわ落ち着かなくなった。口をパクパクしすぎて喉が乾いた。
とりあえず、水を飲もう。
ゴクゴクと一気にお冷を喉に流し込んでいると、岩田がしみじみと語り始めた。
「俺は、先代に頼まれてるんだよ。慎一にいい人ができるまで、見ていてやってくれって…。先代には、ひとかたならない恩があるから、しっかり約束を果たさないと……」
大工の田中も胡麻塩頭で頷いている。
「日水さんが何か頼んできたのは、後にも先にも、そのことだけだしな」
「和ちゃん、日水さんのことは聞いた?」
岩田に聞かれて頷いた。
「慎一の、恩人で師匠だった人だって聞きました」
「どうやって知り合ったかは?」
「なんだか、その人に、拾われたって…」
三人が一斉に笑った。
「確かに、あれは、『拾った』って言う以外、なかったな」
いくつくらいの時だろう。
拾われたなどと言うくらいだから、ずいぶん小さかったのだろうかと思った。だが、岩田は「十五か、十六だったな……」と言った。
和希はびっくりした。
「もっと、小さい時かと思ってました」
「そうだったら、もっとよかったんだろうけどな」
公園で死にかけていた慎一を、ある晩、日水が担いできたのだという。
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