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【13】-1
開店時間の六時に店の扉を開けると、例の女性はすでにカウンターに座っていた。
(いつから、来てるんだよ……)
入り口で足を止めていると、ふだんより早めに仕事を終えた岩田と田中がやってきて、和希は最初から奥のボックス席に連れていかれた。
和希が食事をする向かいで、二人は菜の花とツナの和え物を肴に水割りを飲み始め、若い職人がすぐに辞めてしまうと話し始めた。
技術を身につける前に仕事そのものを辞めてしまうから、人が育たないらしい。
「プレカットやら規格住宅やらが増えて、大工が一から建てる家が減ったからな……」
田中がため息を吐くと、「だけど、細かい現場の作業には、やっぱり腕のいい職人が欲しいんだよ」と岩田も宙を睨んだ。
建具の位置を変えるだけでも、田中の仕事は速いし綺麗なのだと和希に説明し、知識や知恵を伝える相手がいないのが残念だと言った。
シーフード、リゾットを口に運びながら頷く和希が、時おりカウンターにチラチラ視線を送っているのに気づくと、「妬けるかい?」と岩田は笑った。
「な、何、言って……」
赤くなって反論しかけた時、少し乱暴な音を立てて扉が開いた。
「あ。堀さん、お疲れ様です」
慎一の声に振り向くと、くたびれたスーツを着た男が戸口に立っていた。刑事の堀だ。
「ビールでいいですか」
慎一の問いに「まだ仕事中だ」とぶっきらぼうに返して、堀は店内に鋭い視線を向けた。
「ちょっと、いいか」
慎一に声をかけ店の中に入ってくる。まっすぐボックス席まで来ると、和希を見下ろし「確認したいことがある」と言った。
立ち上ろうとすると、「そのままでいい」と言われ、落ち着かない体勢のまま腰を下ろした。
「あんた、この前、怪我をしてきたな。あれは、ただの喧嘩か。それとも、誰かに襲われたのか?」
喧嘩ではないと答えると、堀は上着の内ポケットから二枚の写真を取り出して、和希に見せた。
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