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【13】-3
「この前、和希を襲ったの、俺の下にいたやつらだ……。岩田さんたちから聞いただろうけど、俺は、昔、手が付けられないくらい悪かった」
その頃の仲間だと低い声で言った。
「俺が和希を襲ったようなもんだ」
「それは……」
「同じことをしてたんだよ。……あいつらと」
人から金を奪っていた。
殴ったこともある。
言い訳にしかならないけれど、ほかに生きる方法がなかったのだと、声を落として、切れ切れに言った。
「なのに、和希を助けた気になってた。バカみたいだ」
肩を落とした慎一に、和希は「違うよ」と首を振った。
「慎一は、僕を助けてくれたんだよ」
「だけど、人を襲って金を奪うのはひどいって和希が言った時、何も言ってやれなかった」
あの時、慎一は『何か、訳ありなのかもな』と呟いて、和希に背中を向けた。確かにそれを、当時の和希は悲しいと思った。
けれど、それは慎一の言葉に含まれる意味や、背景にある事情を知らなかったからだ。
なんだかんだ言って、和希は安全で恵まれた場所で生きてきた。だから、苦しい場所にいる人のことを考えていなかったのだ。考えようともしなかった。
それどころか、自分の辛さばかり口にして、会ったばかりの慎一を困らせた。
「慎一……」
和希が落ち込んでいる時、慎一がいつもしてくれるように、そっと手を伸ばして頬にふれた。慎一が視線を上げて和希を見た。
「慎一は、何も悪くない。昔のことは、もう済んだことだ。僕の、赤いスイートピーみたいなもんだよ」
切れ長で形のいい目を見上げて、少し笑ってみせる。
「それに、あの日のことなら、僕にも悪いところがあったんだ。公園で被害に遭った知り合いがいて、街灯が切れてることも知ってて、それでも近道を選んだんだから。気を付ければ、避けられたはずなんだよ」
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