46 / 74
【13】-5
それはすぐに離れていった。
「ありがとな、和希」
おだやかな声が耳に届いた。
(あれ……?)
目を開けると、慎一が和希を見つめていた。いつもの優しい笑みを浮かべて。
「あ……」
何を期待していたのだ。火を噴きそうなほど熱い頬を押さえて視線を泳がせる。
「和希……。そういう反応が、ヤバいんだけど」
「え……」
「二十八の男のくせに」
顎の下を指で掬われ、顔を上げた。
整った顔が再び目の前に近づいてくるのを、じっと見ていた。唇に吐息がふれる。
ふっと、慎一が笑った。
「なんで、さっきは閉じたのに、目、閉じないんだよ」
「え……?」
閉じて……と言う囁きは、和希の唇の中に消えた。
軽くふれるだけの、短いキス。
初めてのキスは、胸がいっぱいになって、心臓がドキドキして、息をするタイミングがつかめなくて、苦しかった。
ともだちにシェアしよう!