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 それはすぐに離れていった。 「ありがとな、和希」  おだやかな声が耳に届いた。 (あれ……?)  目を開けると、慎一が和希を見つめていた。いつもの優しい笑みを浮かべて。 「あ……」  何を期待していたのだ。火を噴きそうなほど熱い頬を押さえて視線を泳がせる。 「和希……。そういう反応が、ヤバいんだけど」 「え……」 「二十八の男のくせに」  顎の下を指で掬われ、顔を上げた。  整った顔が再び目の前に近づいてくるのを、じっと見ていた。唇に吐息がふれる。  ふっと、慎一が笑った。 「なんで、さっきは閉じたのに、目、閉じないんだよ」 「え……?」  閉じて……と言う囁きは、和希の唇の中に消えた。  軽くふれるだけの、短いキス。  初めてのキスは、胸がいっぱいになって、心臓がドキドキして、息をするタイミングがつかめなくて、苦しかった。

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