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【14】-1
「夜、時間ある?」
まだぼうっとしている時に、慎一が言った。
「店を閉めた後……、遅い時間になるけど、会える?」
「夜って……、今日の、夜……?」
「うん」
金曜日で、明日の仕事の心配は無用だった。しかし、閉店後となると真夜中である。草木も眠る丑三つ時……。
「土日はテルの居場所を探しに行くから、あまり時間が取れない。でも、和希に話したいことがある」
だから、今夜泊まりに来ないかと慎一は言った。
「同居のことについても、ちゃんと話そう。場合によっては、予行演習を……」
「予行演習?」
顔を上げると、慎一はすっと目を逸らした。
「……ば、場合によってはな。とりあえず、一回帰って、歯ブラシとか、いろいろ持って来いよ」
いつの間にか決定事項になっていて、裏口から店に戻る前に合鍵を渡された。
カウンターの女性に冷ややかな視線を向けられ、気まずくなって会釈を返し、岩田たちに挨拶と礼を言い、いつもより早い時間に店を後にした。
パジャマと着替えと歯ブラシを持って、再び慎一の店に戻った。
店を通り抜けるのもヘンな気がする。和希は踵を返し、裏口が面している細い路地に足を向けた。
慎一の店とよく似た造りの細長いビルがいくつかと、もう少し幅のあるビルが、背中をくっつき合わせるように並ぶ路地裏。
何度か慎一と歩いたが、一人で来るのは初めてだった。
裏口ばかり並ぶ空間には、居酒屋や蕎麦屋や中華料理屋から流れてくる油の匂いと、美容院やクリーニング店の匂い、煙草の匂いなどが混ざり合っていて、どこか混沌としていた。
物置や掃除用具やゴミバケツ、古いベンチや自転車などが乱雑に置かれた空き地に、猫が何匹か座っていた。
反対側は繊維工場の塀が延々と続いていて、ビルの先は空き地だった。
あたりは全体的に薄暗かった。
一番奥に古い町工場の看板と鉄の門が見えていて、路地はそこで行き止まりだった。
手前から三つ目にあるビルの裏階段を上がり、玄関の鍵を開けた。
扉の向こうでみるくが「にゃあ」と鳴いていた。
ドアを開けると、みるくは慌てたように廊下の奥に走り出したが、すぐに和希だと気づいて戻ってきた。
床に寝転び、お腹を出してくねくねしてみせる。
慎一のいない家の中はなんだか落ち着かず、みるくを抱いて屋上に出た。そのままぼんやり空を見ていた。
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