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【15】-1
古いソファやダイニングセット、冷蔵庫や洗濯機は、使いたければ持って行っていいし、いらなければ最後にまとめて処分すると母から言われていた。
慎一のところに行くのなら、どれも必要ない。
自分の荷物だけ整理して、捨てるものと持って行くものを分ければよかった。
掃除のついでに本や衣類を片づけていたら、土曜日はあっという間に終わってしまった。
夕方になって、慎一から電話があった。
『テルがどこにいるのか、全然わかんないんだよ』
グループそのものが小規模化していて、目立つ情報が見当たらない。いろいろな人に聞いてみたが、さっぱり見当がつかなかったという。
『足を洗って十年だぞ。堀さんが知らないことを、俺が知ってるわけないだろ』
「それを僕に言ってもしょうがないよ」
『堀さんに言えないから、和希に言ってるんだよ』
なんだかよくわからないけれど、声を聞けたのが嬉しいので、よしとしよう。
『和希は、何してた?』
掃除と、引っ越しの準備だと言うと、ふふ、とかすかな笑い声が聞こえた。
『今から泊まりに来る?』
どこか甘い声で言われて、息が止まった。昨夜のような展開になったら、今度は拒めない気がする。
『和希?』
「き、今日は、もうちょっと、片付けを頑張る」
『ん。そっか』
慎一はすぐに納得した。
いっそ強引に奪ってほしいと思う和希は、たぶんずるい。どこの女性向けロマンス小説だとツッコミを入れたくなるほどに、弱くて臆病だ。
(情けないな……)
それでも、例えばみるくのように「何もかもは与えてやれないけど、ここにいろ」と言われれば、それで全部が決まってしまっていいと思っていた。
何もかもなんていらない。
ただ、欲がないと言われる和希にも、欲しいものはある。
それが何か、今ならわかる。
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