59 / 74

【17】-1

 堀から言われたことを、慎一はそのままテルに伝えた。  テルからも話を聞き、いくつか質問をした後で、「明日、店を開ける前に顔を出せ」と言ってテルたちの隠れ家となっていた廃工場を後にした。  路地を家まで戻りながら慎一がため息を吐いた。 「何やってんだよ。スマホ鳴らしても全然出ないし」  不機嫌な言い方に、助けてもらった恩も忘れて和希は口を尖らせた。テルと慎一が話している間に、震えはほとんど収まっていた。 「だって、エコバッグに……。てゆーか、なんですぐ来ないんだよ。みるくが、どっか行っちゃったんだぞ」 「みるくは回収済みだ」 「え……?」 「花の後ろに隠れてた」  赤いスイートピーの、と言って、またため息を吐く。  和希が裏を探しに行ったから、表を探そうとしたら、そこにいたのだと淡々と説明した。 「そ、そうなんだ……」  それにしても来るのが遅かった。  再び文句を言うと、「バカな女が階段でこけたんだよ」と不機嫌さを強めて言った。転がり落ちて大騒ぎして、足をくじいたと言うからタクシーを呼んでいたのだと続ける。 「あんなヒールで来るからだ」  和希は足を止めた。 「なんで……」 「和希?」 「なんで、あの人がいたんだよ……。今日は、昼間は用事があったんじゃないのかよ」  涙がじわりと滲んできた。

ともだちにシェアしよう!