かわりに奈緒紀の顔にむさぶりつきながら、好きに腰を振っていると、ふいに接合部にちいさな痛みと違和感を感じた。慌てて装着した避妊具が、なんらかの理由で破けたのだ。 「ちっ」 　彼のなかから一瞬でも出たくはなかったが、異物を彼の体内に残して万が一のことになってもいけない。恭介はやむなくいちど自分のものをひき抜いた。 「――っうっ」 　乱暴な所作に奈緒紀が呻く。 　無性に彼と離れたくないという気持ちが強くて、恭介はさっさと破裂したゴムを外してその辺に放ると、ふたたび彼に覆いかぶさった。手を添えてぎゅっと生のままの性器を奈緒紀のなかに潜(もぐ)りこませると、ついでに彼の着ていたTシャツも脱がしてしまう。 　肌をぴたりと合わせて、奈緒紀の温もりをじかに感じ安心する。肩に齧りつきながら胸のちいさな突起を指の腹に擦りつけていると、ほどなく恭介は一度目の絶頂を迎えた。 　奥歯を噛みしめても「くぅっ」と声が漏れてしまう、最高の悦楽を味わう恭介の腕に、鋭い痛みが走ったのは、しがみついてきた奈緒紀の爪が原因だ。 　恭介は大きく胴震いしながら放った白濁を、すべて奈緒紀の体内に流しこんだ。 　はぁはぁはぁ。 　荒い息を吐(つ)く恭介の下で、奈緒紀が総毛だったようにぶるりと震える。 「奈緒紀、顔……」 　顰(しか)める顔をあげさせて、深く舌を差しこみ、息が苦しいくらいのキスをつづけていると、またすぐに恭介の分身は固くなっていった。 （あともう一回だけ……） 　体内にある恭介の状況を察したのか、にわかに身を固くした奈緒紀が、様子見のように恭介がちいさく一突きすると、びくっとした。ぎゅっと目を瞑り、しゃくりあげた呼吸を舐めるようにして呑みこんでいる。 　本気で可哀そうですまないと思っていても、ダメなのだ。今の恭介には奈緒紀との境界線を曖昧とするこの繋がりが、必要で。これしか餓えた自分の内部を潤して、安らがせてくれるものがない。 （ごめん） 　少しづつ腰を振っていくと、こんどは自分の放った体液で、彼のなかでいい具合に動けるようになっていた。もしかしたら、奈緒紀の身体のほうもすこしは慣れて柔らかくなったのかもしれない。 　僅(わず)かにでも奈緒紀にも快楽があればいいと思う。 　そんなのは恭介が彼の陰茎を擦ってやればすむことなのだが、片側の手は彼の脚を抱えなければならかったし、そうしてもう一方(いっぽう)の手は、――情けない話だが彼の乳首から離れてはくれなかった。 　二度目の途中から奈緒紀は、その華奢な腕を恭介の背中にまわして抱きしめ返してきた。恭介が戸惑って一瞬だけ動きをとめると、彼は自分の眉間にやさしく触れた。 「……先輩。またここに皺、寄っちゃってるよ」 　彼の言葉に息が止まりそうになった恭介は、ぎゅっと目を瞑って涙を堪えた。 「……も、そんな顔しなくていいからさ。好きに気持ちよくなちゃって」 　奈緒紀は恭介に笑いかけようとして、痛みで失敗したようだ。細めた眦(まなじり)に溜まった涙が光って泣いているように見えていた。 　恭介には奈緒紀にどんな気持ちの変化があったのかはわからない。ただ彼が行為に慣れてきて、余裕が生まれただけだったのかもしれない。 　ただこのときの恭介はそれ以上を考える余裕もなく、彼の体内から得られる快感を、貪欲に貪り続けるのに必死だった。 　そして情欲が満たされるころには、彼に加虐しすべてを剥奪したいという気持ちが掻き消えていた。それどころかこちらから奪わなくても、彼のほうからなにかをふんだんに与えられているような気さえしていたのだ。でもそれは恭介の都合のいい勝手な思いこみだったのだろうか――。 「奈緒紀……」 　乱暴に穿(うが)ちながらずっと見つめていた奈緒紀から、僅かな変化を感じた恭介は、彼の唇がしどけなく蠢くのを見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。 　不思議に思って彼の姿態に視線を這わせると、彼が自分で陰茎を緩く扱いていることに気づいた。途端に奈緒紀にいままで以上の色香を感じ、それでさらに興奮してしまった恭介は腰の振りを大きくしたのだ。 「奈緒紀、奈緒紀っ、奈緒紀っ」 　強制される痛みから逃れるための行為なのだろうが、きゅっと眉根を寄せて手淫に集中する彼の卑猥な姿に舌なめずりを繰り返した恭介は、熱い吐息が漏れだした彼の唇にかぶりつく。 　穿つリズムも忙(せわ)しくなっていき、これでは二度目の射精もあっというまだと、恭介は甘く胸を震わせたのだ。 　　　　　　　　　 * 　奈緒紀のなかに二度目の射精を果し、荒い呼吸を治めると、恭介はできるだけそうっと彼のなかから身を抜いた。 　それでも痛みを生じたのか、顔を顰(しか)めた奈緒紀がちいさな呻き声をあげたので、慌てて彼へと手を伸ばした恭介だったが、しかしその手は宙でさ迷ったあと結局なにをすることもなく下ろしてしまった。 　恭介はとりあえず自分のはだけた服を整えると、周囲に散らかっていた彼の服を手繰(たぐ)り寄せ、そしてまた少し迷ってから彼にそれを差しだす。 　憮然とそれを見た奈緒紀に、恭介は心臓をバクバクさせていた。反して情欲を満たしたあとの頭のなかはすっきりして落着いている。 　しかし冷静にものを考えることができても、これから彼が自分にどういう態度をとるのかは、見当がつかず、 「自分で着られるか？　それとも俺が着せる？」 　緊張しながら口を開くと、奈緒紀はちらっとだけ恭介を見て、億劫そうに前髪をかきあげた。