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第25話 <Hシーン注意>

「んー。さきにたばこちょうだい」  返事をもらえたことにひとまずほっとして、恭介は奈緒紀の傍に服を置くと、箱から引き抜いたたばこを彼の口に咥えさせた。ジッポを寄せると彼は自らすこし顔をあげて、たばこのさきに火をつける。  つい今しがたまで性行為のために大きく喘いでいた薄い胸が、こんどは送りこまれたたばこの煙で膨らんだ。月の明かりでうっすらとわかる、胸の薄紅の飾りに狼狽えて恭介はあらぬ方に目をやった。 「はぁ……。あぁあ。やっちゃった」  溜息といっしょに煙を吐きだした奈緒紀は、そう云うとひとくち吸っただけのたばこを「もういらない」と恭介に返した。黙ってそれを受けとった恭介は、そのままそれを携帯灰皿に捩じりこむ。 「捨てちゃうの? もったいない」 「……ん」  いつもならセックスのあとに必ず吸っているたばこも、さすがに今の状況では許されないだろうと、脳のどこかで自分を戒める声がする。  恭介は奈緒紀が次になにを云いだすのか、自分になにか求めていることがあるのかと、サインを見逃さないように彼をじっと見つめた。  月明かりに柔らかく照らされている奈緒紀の表情はいまは安らかだ。そのことに恭介は僅かだけでも安堵させられていた。  恭介が奈緒紀を無理矢理に犯しているあいだ、彼は息を詰めたり呻くことはあったが、最後まで嫌だともやめろとも云わなかった。悲鳴だって上げていない。彼は一切の抵抗をしなかった。  だからといって彼が好き好んで恭介のセックスを受け入れたわけではない。彼の苦しげに寄せられた眉間や歪んだ口もとで、不快や痛みを感じていることは恭介に充分に伝わっていた。  辛いだろうし、痛いだろうし、悔しいだろう。自分を憎くて殺したいと思っているのかもしれない。そう思っていても、それでも恭介は奈緒紀の身体から離れることができなかったのだ。  顔を顰める奈緒紀がすべてを終えたあと、喚くのか、泣きだすのか、怒りだすのか、暴れるのか、いろいろ想像ができていた。どれだけ自分が非難されるのだろうかもだ。  それでも恭介は奈緒紀を求めて鄙劣(ひれつ)な律動をつづけ、彼のなかへと醜行(しゅうこう)の証を吐きだしたのだ。  恭介がせいぜい彼を想ってできたのは、吐精の瞬間に申し訳ない気持ちでぎゅうっと彼を腕のなかに抱きしめることだけだった。  そしていま。  訪れた賢者タイムで、人生において過去最高の罪悪の重圧で、恭介は圧死しそうになっていた。 (最悪だ。ほんとうにとんでもないことをしてしまった……)  気分はすっかり判決を待つ罪人だ。愚行に及んだとしても根っからのバカではない恭介は、行為の最中にだって、なんどもあとのことが脳裡にちらついていた。それでもそのときは自分の情動をとめることはできなかったのだが――。  たとえ刺殺されても、文句が云えないことをした自覚はある。下手に許されるくらいなら、いっそぼこぼこに殴られたいくらいだ。それくらいには罪の意識があった。  (だる)そうにこちらに顔を向けた奈緒紀が溜息を()くだけでも、内心ひやひやもだ。 「先輩、眉間……。その皺やめてよ。なにその『不味いもの喰っちゃいました』みたいな顔。チョー失礼だよ」 「……悪い」  奈緒紀は身体を起こすと(おもむろ)に下着を身につけはじめた。途中「うぇ」と顔を(しか)めた理由に思い当たった恭介はもういちど「悪い」と呟いて、決まりの悪さに彼から目線をはずす。  恭介は彼のなかにたっぷりと二度もだしていた。きっと零れてきているのだろう。  それにしても、奈緒紀の態度はあまりにも軽い。なにが「はぁ。……やっちゃった」だ。  どう見かたを変えてみても、奈緒紀の様子は自分に気を使って無理やり元気なふりをしている、というようには見えない。  なにごともなかったように服を着はじめた彼を(いぶか)しげに見やる。恭介の貸した服はどれも彼には大きくて、Tシャツのなかで身体が泳いでいるようだった。 (おまえ、俺に強姦されたんだぞ?)  わかっているのだろうか。あれほど痛そうにしていたではないか。そんななにもなかったかのように振舞われると、本来は胸を撫でおろすべきところなのに、それはそれで恭介にはおもしろくない。  これだけ大事(だいじ)を起こしておきながら、当初の彼をぎゃふんとさせたいという思いが昇華されないじゃないかと不満がわくのだ。  まったく懲りていない自分に幻滅しつつ、恭介はまたもや奈緒紀にやつあたりする。 「おまえ、もしかして男と経験あるとかって云うんじゃないよな?」  つい口から出た言葉は、あまりにも幼稚だった。 「あるわけないでしょ。先輩バカなの?」  ボトムを手にした奈緒紀にぎろっと睨まれて、さすがに首を竦める。身体が辛いのか彼はボトムを穿()くのも一苦労のようだ。奈緒紀はそのままではずり落ちそうなジーパンを、ベルトで細い腰にぎゅっと締めつけた。 「はぁ。脚広げられすぎて股関節、がくがくだよ。女の子って凄くない? あ、先輩にはこの辛さ、わかんないか。やられちゃったの、俺だもんね」  恭介はうっと言葉に詰まって、胸を押さえた。 (い、居たたまれない。もしかして報復がはじまったのかっ⁉) 「はぁ……」  重苦しそうに息を吐きだした奈緒紀がまた口を開く。恭介はいよいかと固唾を飲み込んだ。覚悟はできている。なんとでも云ってくれ。もちろん殴っくれたっていい。  

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