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第2話 絵?

 目が覚めると、何よりも先に鼻に違和感があった。嗅いだことのない刺激臭が鼻につく。あたりを見渡すと知らない部屋のベッドの上で寝ている。  すぐにあの男の部屋だと分かったのは窓から見える風景がうちとそう変わらないからだ。間取りが同じならこの寝室を隔てているふすまを開けると他にリビングとダイニングがあるはずだ。  痛い頭でなんとか起きあがってふすまを開けた。  そこは灰色の別世界だった。 「絵?」  たくさんの絵が置いてある。どうやら鼻につく刺激臭は油絵の具の匂いだったみたいだ。  どれも町の風景だった。雨が降っていて、暗く、もやがかかった町並みには誰もいない。都会の風景が多いようで、建造物はあって廃墟でもないのに、人の気配がない。薄暗い町は、石畳かコンクリートが煌々と街灯に照らされている。薄ら蒼い灰色の町に白い光が浮かぶ。雨は嫌いだったのに。ここの雨は濡れても寒くならないような、心まで凍てつくようことはないような、ここなら濡れてもいい、なぜか、そう思えた。  一つのキャンバスのまえで、髪をくくった男が振り向いた。 「起きた? えっと、武市さんとこの何くん?」 「蓮。あんたは?」  やっぱり顔がいい。なぜ、外で見るときはいつも髪をおろしているのか。 「二軒隣の吉野啓介です。蓮君、熱あるみたいだよ? それ冷えてる?」  おでこを指される。言われて触ると冷えピタが張られていた。意識すると、額が冷たい。 「なんか、たべるか?」  筆をおき近寄られると背が高いからか結構な威圧感で、でもやっぱり表情は優しげだ。いくつなのかわからないけど笑うと笑いじわが目じりにできて人懐っこい印象になった。 「なんなの? 何が目的?」  あまり頭が働かないだけど、初対面の人にこんなに親切にして貰えると、なんだかうさんくさい。 「何が目的って、とって食ったりしないよ。ご近所なんだから、困ったときはお互い様だろ? それに仮にも教職の身ですから」 「先生?」 外で見たらどうみても不審者の風体のこの人が? 「教科だけ教える非常勤だから、そんなえらいもんじゃないけどね」  不意に大きな手で吉野は武市の頭を優しく叩いた。 「寝ときな」  人に親切にされるのはなんだか怖い。そう思っていても、頭は揺れて右こめかみあたりがずっと痛い。先生という言葉は学生からすれば曲がったことはしないと一応思えるし、何より武市は男で見返りがない。もういいかと武市は、言われるままにベッドに横になった。

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