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第3話 おかゆ

 たぶんさっきからそんなに時間はたってない。吉野が夕飯を用意する物音で起きた。吉野はベッドの横に折り畳みのテーブルを広げておかゆを用意していた。 「おかゆってそんなにしんどくないけど」 「病人がおかゆって言うのは様式美なんだよ」 「意味わかんね」  そう言いながらもゆっくりと起きた武市はおかゆをかきこみながら、吉野のおかずも分けてもらった。吉野は教科だけ教える美術の先生と、他にも塾や教室で教えたり、いくつか美術関係の先生を掛け持ちしていると話した。  最初は気になっていた絵具の匂いはもう気にならない。  ごはんも食べ終わってまた武市はベッドにねころぶ。片付けも全部、吉野がしてくれた。 「家、まだ開いてなさそう。なんで、家の前にいたの? 鍵なくした?」  武市宅の明かりをわざわざ見に行った吉野はそう言った。  よく知らない男をこんなにいたれりつくせりで世話してこの男は何が楽しいか。いぶかしげに思ったが、体のだるさが先行して何を考えるのも面倒だった。 「鍵もらってない」 「マジで? 大変だな。まぁ、今日は泊まっていけばいい。いつもそんなに帰ってないだろ?」  なんで知ってんのって武市は言いかけたけど、朝帰りの時に、軒先であったことがある。  腹いっぱいだからか眠くて、あぁ、だとか、そんな感じの返事をしても、吉野はずっと見た目に似合わないにこやかさだ。あの絵の人みたいだ。一見、冷たそうだけど、雨も明かりも一体になって包み込むような優しさがある。絵を描いたのが吉野なのだから当たり前なのかもしれないが。吉野に見守られながらいつの間にか武市は眠ってしまっていた。  朝の健全な時間に起こされて、朝ごはんもごちそうしてもらい、またいつでも来いよと家を出された。  朝になると母親は帰っていたので家に入って学校の用意をする。母親は寝ていて、間取り的には吉野の家で武市が寝ていた奥の部屋で、締め切った扉からは物音がしない。  家を出る。朝の登校が余裕で間に合ういつもより早い時間なのに、眠くない。いつもは体がだるくて仕方ないのにすっきりしていた。

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