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第4話 ゆっくりしたい

「今日どこ行く?」 「あそこのコンビニつぶれただろ」 「マジで」  だらだらと友人と学校でたむろっていた。たぶん下校時間まで学校にいて、このまま公園でゲームコースだ。  教室に強烈な西日が射している。もう授業も終わってしばらくしたのに、まっ黄色の太陽が教室の中をいつまでも照らしてる。まだしつこく日が長いし、暑さがなかなか去ってくれない。 「そういえば、今日、山下は? おれ、ゲーム借りてたんだけど」 いつものたまりメンバーだった山下が今日はいない。 「あいつ、予備校」 「予備校? なに、やっと真剣に行き始めたの? もう夏も終わるけど、遅くね」  この学校は底辺の商業高校で就職志望が大半で、進学しても短大や専門が多い。その中でも山下は親の方針なのか大学に通ってほしいとのことで春から予備校に通っていたけど、さぼりがちだった。 「受験する奴は大変だな」  もうこの話題はおわりというみたいに、少し声を張って斎藤が言った。  ここにいるメンバーはいわゆる不良というものであまり勉強はできない。就職するんだろうけど、まだ何も考えずにやさぐれている。  武市自身もまだ何も考えていなかった。なにか未来のことを考えようとすると、黒いもやが頭を支配して、考えることがひどく億劫になる。逃げるようにいつも携帯のゲームをして、時間を浪費してる。 「にしても、あついな」  設定温度の高い上に弱いクーラーの風が頭の上をなぜた。若い汗のにおいが暑苦しさを冗長する。  ふと、鼻の奥を叩くようなあの刺激臭を思い出した。涼しいというか少し寒そうな絵と、狭いからかよくクーラーが聞いた部屋。 「家に帰ってゆっくりしたい」  友人たちの話の間にふと自分の願望がもれてしまった。  言ってからやべっと思った。 「すればいいじゃん」 「武ちゃんはおかあさんが恋しいの」 「ちげえって、風邪ひいてるから」 「軟弱」  嫌な間が流れる。家に帰ってだらだらできるならそうしてる。それがかなわないから、外でたむろしてるわけで。ここにいる全員は知らないけど、いま、不機嫌な顔をしたリーダー格の斎藤は家のいごこちがわるいことはみんなが知ってる。 「帰れば?」 斉藤は冗談と思えない声色で言った。 「今日は帰る」  大丈夫かというほかの友人の顔も見えたけど、自分が失言したのだ。しかたない。武市はカバンを肩に担ぐと教室を足早に出た。  なんであんな失言したのか。わかってる吉野の家で、一泊したからだ。夜になる前に帰って、夕飯をつくってもらって、後片付けもせずに、整った寝床で眠れる。おまけに朝ごはんまで。至れり尽くせりなのは父が去って以来、ずいぶん久しぶりだった。  大きくため息をついた。どうしようもない。  いつも寄ってるどこの場所もみんなが行きそうで行けない。ただあてもなくふらふら歩く。  あぁ、どこか帰る場所がほしい。  だんだんと日が暮れて来て、それでも帰れずにただ歩いた。日が暮れるとまだ外は歩くこともできる暑さだったのは幸いだろう。  歩いてるうちに知らない場所に出る。いつもの生活圏とは違う場所にも、たくさんの生活があるけど、どこにもなじめる気がしない。  こっちは頭のいい他校があって、うちの学校とは折が合わないのであまり来ない。そういえば、美術系の高校もこっちの駅だった気がする。  なんとなく、周りを歩く制服姿を目で追ったけど、どこの制服までかわからない。  歩くのに疲れてきて、知らないコンビニの前で一息ついた。  今日は何時に帰れるだろう。対して帰りたくもないのだけど。 携帯に充電器をさして、ゲームを起動した。 「君、一人で何してるの、その制服、澤野高校だろう?」

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