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第5話 チョコミント
警官があらわれた。携帯ゲームをしてる間にどれくらい時間がたったのだろう。長い日はとうに没していた。通報されるぐらい長い時間いたのか、だだの見回りか。
「あっ、すみません。もう帰りますので」
こんなときに素直に受け答えするのは初めてだ。だいたい気のはやい友人が口悪く答えて、どうにもならない押し問答を始めるのだけど、けっきょく解散させられて、終わり。今の不良ってそんなもんだ。
俺はすっと立ち上がった。
「あれ、蓮、何してんの」
聞き覚えのある声がした。
「吉野さん」
吉野はいつもの黒い姿に髪は降ろしてる。まさかの手ぶらだ。
「知り合いの子供です。なに、こんなところで、迷ったの?」
吉野の不審者然とした姿では余計にややこしくないかと思ったけど、警察官は武市がかえればいいのか立ち去ってくれた。
「迷ってないけど。吉野さんこそ何してんの」
「そこの美術系の予備校で教えてんの」
駅の方を吉野は指した。
「そうなんだ」
美術の高校のことを何となく思い浮かべてたけど、的は外れたようだ。外れてしまって、自分がこっちに来ていたのは、吉野のことを思っていたからみたいに思えて、激しく自分で否定した。
「なんか買って帰ろうか」
このコンビニで何か買うのは通報されてたら恥ずかしかったのだけど、吉野はすっともうコンビニに入ろうとしていて、その自然さに武市はついていっていた。
「本当に迷ってた?」
吉野と買ったアイスを食べながら並んで帰る。アイスなんて久しぶりに食べた気がする。いまさらだけど甘くておいしい。
「方角でわかるから」
知らない土地ではあるけど、おおよその位置は把握してたから帰れなくはない。
「うわ、地図読めるタイプだ。俺行った道かえれないもん。すごいね」
「別に、大したことはないだろ」
手放しに褒められると恥ずかしい。話題をかえようと、「それおいしいの?」と武市は言った。
「おいしいよ。チョコミント。俺、ラムレーズンとチョコミントが好き」
「どっちも食べたことない。変な味ばっか好きだね」
「食べたことないのに。変な味っておかしくねぇ? 食べてみなよ」
自然にアイスを口の前に差し出された。薄いターコイズブルーには砕かれたチョコが絶対にここは場違いだと叫んでる風に見えた。
人とシェアするのはあまり好きじゃない。ましてやよくわからない食べ物を。それでも、その清涼感ある色が、なんだか、今日の日を全部涼しくさせてくれるような、よくわからない気持ちにさせられて、武市は控えめにかじった。
「うわ、なにこれ」
口の中には想定している清涼感よりも強い清涼感が広がった。
「チョコミント」
「まっず」
「うわー、お前、それは全チョコミント党を敵に回したよ」
「なんだそれ」
口の中はすっとしたミントが広がって、おおよそアイスを食べた後とは思えない。
「普通にバニラがいいわ」
「バニラもおいしいけどさ」
好きなものを否定されたのに吉野はなにが楽しいのか、にこにことアイスを食べていた。
その全部につられていたのか、武市はふっと、笑った。一度笑うと、笑うのが止められなくて。口の端が上がるのを自分で止められない。
「吉野さん、チョコミント似合うね」
「さわやかってこと?」
「そういうのは、自分の見た目見てから言った方がいいよ」
「えぇー、めっちゃさわやかじゃん」
「どこが!」
武市は自分の物言いが一回りぐらい違う年のしかも教師にいうには乱暴で、でも、やっぱり吉野は楽しそうで。こんな大人にあうのは初めてで、こんなに気が合う人間も始めてだ。家まではそれなりに歩くはずなのに。あっという間に着いてしまった。
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