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第7話 めまい
「武市君さ、明日ラストまでいける?」
シフト表を片手に店長があまりも困ったという顔で武市のもとに近寄ってきた。
「あぁーー、はい」
「助かる。受験がどうとかで一人やめちゃって、そういえば、武市君、受験は?」
「就職なんで」
「そう。やめる時は一ヶ月前に言ってね」
店長の声に他のバイト達がこそこそと武市の顔を見て笑い合った。なにか噂の的になっているのだろう。武市は見た目のせいも本人のコミュ力のせいもあって、バイト先にあまりなかのいい人間はいない。
このホームセンターはバイトから正社員に一応あがることは出来るけど、武市にそういう声かけは今のところない。店長に好かれてないし、ここで就職したいわけじゃないけど、ため息が出る。
高校の後の進路はなにも考えてない。ただ家を出たいそれだけで。高校から早く志望の会社を出せと言われてるけど、なにがいいのか全然わからない。受かる気もしない。卒業してフリーターで生きていくのはきっとしんどいとわかってるのに、なにもうごけない。未来のことを考えるといつもめまいがする。それでも、まだ去年ぐらいまでは、なんとか見ないふりができた。もうそれもくるしい。どうなるんだろうってあせっているのに、どうして自分は自分のことをどうにもできないんだろう。
母親からももちろんなにも言われない。あの母親は自分のことをどう思っているんだろう。
余計なことを考えたかだろうか、いつもならしないようなミスをしてしまって、何人もの前で嫌身に怒られた。
帰路につくと家の窓には明かりが灯っていた。今日は早かったみたいだ。もう時間も遅いから、帰らないといけないのに、このまま帰りたくない。身体もとくに足が疲れきっているので、どこに行くのもしんどい。こんな時間から尋ねられるほど仲のいい友人はいない。というよりも前の気まずくなった発言から武市は友人たちと疎遠になっていた。そもそもあまりあわなかった。みんな帰る場所がないからたむろってただけで仲がいいとは言えない間柄だった。そう思うのは自分が冷たいからか、人付き合いが上手くないからか。
誰からも自分は必要とされてないのだ。
自分のなにも出来なさが突如おそってきて、身体が浮くようで、全部が遠のく。
吉野の家も明かりがともってる。あそこに行きたい。あそこにいるときだけは武市は自分のことを卑下しないでいれた。吉野の家にいって音楽といやにうまい吉野の鼻歌を聞きながらうとうとしたい。
「何してんの?」
聞き覚えがある声が後ろから聞こえた。
「吉野さん?」
吉野の家には確かに明かりがついてるのに、吉野は後ろから帰ってきた。
「なんで外にいんの? 明かりついてるけど」
「夜、外に出るときは消さないよ。暗い家に帰るの嫌じゃん。アイス食べる?」
吉野はたくさんアイスが入った袋をかがげる。
「買いすぎじゃん」
「ほら、俺には餌付けしてる男子高校生がいるからね」
吉野は明かりがついている武市家に気づいてる。そして武市がその明かりをみて立ち尽くしていたところを見ていたんだろう。
「ほら、おいで」
本当にかろやかに吉野はそう言って、武市の手をとってつないだ。
「おっさん、何してんの」
「おっさんは傷つくんだけど。すぐそこまでじゃん」
傷つくと言いながら、吉野はわらっていた。何を言われたらこの人は怒るんだろう。その笑顔に誘われるままに吉野は武市の部屋に招かれた。
アイスを並んで食べる。とくべつ何か話さなくても、なんだかくつろげる。ぼーっと絵を眺めた。描きかけの絵はまだ整っていないけど、ビビットな青と暗い黄色の色味もきれいだった。この絵を何となく眺めてる時間も武市は好きだ。絵をいままで好んで見たことはないけど、良さがわかった気がする。人と一緒にいるには難しくてうまくいかなくて、そういう時、寂しい自分によりそってくれるような存在。孤独をそばで見ていてくれるような、そう思うのは吉野が自分にとってそういう存在だからだろうか。
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