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第9話 彼女

 放課後、バイトもなくて、でも、なんだか今日は、吉野の家に行き辛い。わかっている。吉野のなにか明るい雰囲気に自分はどうしても圧倒されて卑屈になっている。もしかして吉野の家があんなにも居心地がよかったのは、一人で粛々とボロアパートで絵を描く吉野は、寂しい人間と同類のレッテルをはっていたのかもしれない。そう思うと自分が最低すぎて、ますます吉野の家に行きにくい。せっかく手に入れた帰りたい場所も、こうして自分の性格の悪さゆえになくなってしまう。  どこにもいけず、ふらふらとコンビニ立ち寄った。 「あれ、なんか、久しぶりじゃん」  振り返ると、同じグループの山下だ。一人のようで安心する。 「あぁ、そうだな」 「彼女でもできた?」  向こうは武市がすでにあのグループからはハブられてることに気づいてると思うけど、気づいてないふりをしてくれている。 「できてねぇよ」 「そうなの? 最近付き合い悪いから、絶対女だって話してたんよ。まぁ、どっちでもいいよ。元気ならさ」  山下は笑って武市の背を叩いた。気が大きいけど、前からこんなやつだっただろうか。 「というか、俺もさいきん集ってんないんだわ」 「そういえば、予備校サボってないんだっけ?」 「そうそう」  山下は予備校なんて絶対に楽しくない話題なのに、なぜかにこにこしている。 「なんだよ」 「好きな子が出来てさー、めっちゃかわいいの。ぽかりのCMにでてきそうな子。今日もいまから予備校で、もうぜったいサボれない」 「よかったな」  あまりにもデレた様子に心からよかったと武市は言った。こんな風に本音であのグループのメンバーに言うのは初めてかもしれない。 「ありがとよ」  山下も心からの笑顔で笑い、彼女にできたら紹介するといって別れた。  そんなに彼女がいいものなんだろうか。吉野も今はいなさそうだけど、できたら、友達より、自分より優先するのだろうか。  なにか考え事をしていると、帰らなくていいのに帰り道を歩いていて、向かいから、吉野が歩いてきているのが見えた。会うのが気まずいと思っているとこうして出くわす。一本道でさけようもない。  吉野は武市に気づき手を振った。あっちは当たり前だけど、気まずくないみたいだ。その横で同じように手を振る男がいる。手を振られたけど、知らない。 「この子蓮君じゃない?」  そばまで来たときに、挨拶もなしに男はそういった。そんなに遅くない時間なのに酔っているのか、ふらついた足取りだ。 「おまえ、あんまりかまうなよ」  絶対に武市にはつかわないような存在な口調で吉野は男に言った。 「蓮、どうしたの? 家来る?」 「いや、」 ここでこういう時、すっぱりと答えたらいいのに、家の明かりはついてないんだから、間が悪い。 「友達いるし迷惑だろ」 「いい、いい。おいで、アイスあるよ」 「それこどもたぶらかす悪いやつだって」 何時だって優しい吉野に横から男はちゃちゃを入れる。 「うるせーな。こいつ大学からの友達で田辺っていうんだけど、夜勤明けて昼から飲んでんの最悪だろ。もううち来ても寝てるだけだから気にしなくていいよ」 な、と声をかけられたので、武市はさそわれるままについていった。

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