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第12話 ぐるぐるとどうどう
気にしないでとは言われても、気にする。いや、吉野が男もいけるということを気にしてるわけじゃない。そこはあまり気にしなかった。あの人が浮世絵離れしているからだろうか。
じゃあ、自分は、何をこんなに気にしてるんだろう。
わからない。でも、今の気持ちのままあの家にいっても心からくつろげない。自分が狙われてるなんてまったくもって思わない。魅力的な吉野が何もない武市のことを狙うなんてぜったいにない。ただでさえないのに、高校生に、年の差という理由で同じ年の子が降られているのだから。
ねらわれてないことはわかってる。自分は吉野に好かれることはない。いや、好かれてるのはわかる。だけど、それで、俺は。
おなじような思考がぐるぐるとどうどう巡りしている。結局自分がどうしたいのか、わからない。いつだってそうだ。なにもせずに、流されて、だからなにも持っていない。
ため息をこぼした。
吉野のことばかりを考えている。考えることはほかにもいろいろある。おもに就職と今後の未来のことだ。それもなにもしないで放置している。
本当に自分は。そう思いながら何も考えたくなくてバイトばかりを詰めていた。
「武市さんって彼女いないんですか?」
バイトの休憩時間、年下の女の子に携帯をいじりながら聞かれた。最近入ったこの子と休憩時間がかぶるのは初めてのことだった。休憩時間に誰かに話しかけられることは珍しい。
「なんで?」
「なんでって、ごく一般的な話題じゃないですかー?」
「いない」
「いないんすね、意外。だいたいヤンキーはいると思ってました。あたし、別れたとこなんすよ。武市さん紹介してくれません? あたしも紹介しますんで」
武市は自分のことをヤンキーと思ったこともないが、素行は悪いし、態度もよくない。それでも、女の子は気にしないでぐいぐい来る。
「無理。友達いないし」
「一匹狼ってやつっすか? まぁ、友達いなくても彼女いればいいと思いますよ。武市さんかっこいいし、すぐまたできるっしょ」
「ほめられたと思っておく」
おれはため息をついた。それに、女の子は武市の地雷をふんだと思ったらしくすっと目を携帯に向けた。
別に、何も怒ってはいないけど、それをうまく伝えるコミュニケーション能力はない。人付き合いが下手なのだ。
そんな自分が彼女なんて。またすぐどころか、武市はいままで彼女がいたことがない。それどころか、母親を始め親戚や同級生という出会った女の中で、近しい女というのがいたことがない。今、女と話したことが、武市にはひさしぶりだった。
女の子をかわいいと思ったことはある。でもたぶん、同じぐらいの感情で男をかっこいいと思ってる。それはどっちも見た目に対する単純な評価で、好きという感情がない。いままで、人を好きになったことがない。
これがいま、さらに吉野のことを考えてややこしくなってる。
吉野に家にいることは歓迎されても、それ以上の関係を望まれていないことに冷たい風が吹き抜けるようなさみしさを覚えるのは。
吉野のことをどう思ってる?
どんな感情を好きという?
どうしようもない。相手は10才以上年上で、対象外だとはっきり言われてしまった。もしこの感情を好きという気持ちなのだとしたら、最初の好きなのだとしたらそれが自分の手に入ることはない。
武市はまたぐるぐる回りだす思考とそれにつられてのぼりあがりそうな感情にふたをした。
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