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第13話 さみしがり屋

「あれ、君、誰だっけ」  家に帰る途中、声をかけてきたのはやや酔っぱらっている田辺だ。 「武市です」 「武市? あっそうそう蓮くん。吉野がいつも名前で呼ぶから苗字は覚えてなかったわ。家帰る途中? 遅いね、バイト?」  前から思っていたがよくしゃべる人だ。  武市は吉野にがばりと肩を抱かれた。さらに、なれなれしい。 「バイト多いの? 最近、来ないって、この前吉野に怒られちゃったんだよ。俺が余計なこと言ったせいだってさ」  避けてたことがばれてたみたいだ。行ってないことを吉野は寂しいと思ってくれてるらしい。他人からこうして好意を知らされると嬉しい。 「吉野の家にいこうと思ってたんだけど、一緒にどっかいかない?」 「えっ」  この人は苦手だ。あからさまに嫌な顔をしたと思うのに、そのまま腕をとられてしまった。どこかといっても住宅街で寄るところもない。自販機でジュースをおごってもらって公園で並んで話すことになった。 「なんかさあいつ、恋人いないのに安定してんなって珍しいことあんなって思ってたんだよね」 「はぁ」 買ってもらったオレンジジュースを飲む。キンキンに冷えていて、寒くなってきた夜には冷たい。 「吉野ってつねにだれかいないと不安定なタイプなんだよ。ずっと恋人切らさなかったし。なのに家呼ばないとか。さみしがり屋なのに、心の壁厚いからすぐ別れちゃうの。兄弟多いからかもしれないけど、誰かそばにいないと落ち着かない。ある種の依存症だよね。なのに、友達も対していないもんだから、俺、恋人いないとしょっちゅう呼び出されるんだ」  田辺の口からきく吉野像は、武市が見てる吉野とはずいぶん違う。そんな吉野は想像もつかない。一人でも生きていけるタイプで、自分が行かなくてもいつもと変わらず、淡々と絵を描いてるんだと、そんな姿の方がすぐに思い浮かべた。 「一人を大切にできなんだったら、友達たくさんつくりゃあいいじゃんと思うけど、薄く多くさ。それも上手いこと出来ない」 そこで、田辺は武市に目を合わせた。 「だからさ、まぁ、また、行ってあげてよ」  その目は真剣なようで、もしかしたらこの人は自分を待っていたのかもしれない。そう思って、武市は素直にうなづいた。

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