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第5話

BAU専用のジェット機の中では四人掛けのテーブルに窓際の席にエミリー、その横にロッシ、その前にモーガン、そして窓際のエミリーの前でモーガンの隣にリードが座っている。 そして通路の壁に寄り掛かるようにしてホッチナーが立っていて、その横にはJJも立っている。 ロッシがファイルを見ながら「見れば見るほど似てるな。この7人は」と話し出す。 モーガンも「そうなんだよな。顔立ちから体型から髪型から発見当時の洋服や靴のブランドに至るまで全員同じ。こんな偶然はねぇよ。誰かが彼らをそう仕立てたんだ」と続ける。 「それに失踪当時の写真を良く見て。 二人目と五人目はダークブロンドの髪よ。 それが遺体で発見されてた時には、他の遺体同様茶色になってる。 染めたんだわ」 エミリーがそう言うと、リードが話し出した。 「拉致されて殺さたと仮定すると、犯人にとって『理想の外見』の人間と長く過ごす事に意味があるんだ。 最後の被害者は二年間も犯人と一緒に過ごしているのに、その間拷問も拘束すらされていない。 きっとレイプだってされていない。 だけど犯人の理想を壊した行動を取った時に殺されたんじゃないかな。 犯人は自覚していないと思うけど、『理想の外見』を持った相手を暴力なんかじゃなく、自分の知性で『理想の外見』を持った相手をコントロールし、『理想の行動』を取らせる事で性的快感を得るんだ。 そして理想を壊した相手は容赦無く殺すけれど、折角自分が作り上げた『理想の外見』を壊すのは勿体無くて、なるべく綺麗なまま殺す方法を選び、直ぐに発見される場所に置く。 最後の被害者だけ殺される直前にレイプされて足の裏に傷まで負ってるのは、それまでの被害者より『理想の行動』の逸脱が激しくて、犯人は自分を見失ってしまったのかもしれない。 但し精液が出ていないってことは、ゴムをするだけの冷静さは持ち合わせていた」 「典型的な秩序型でボス猿タイプのナルシスト。自己愛性パソナリティー障害のサディストだな」とホッチナーが続ける。 そして「ガルシア、何か掴んだか?」と言った。 パソコンの画面にパッとガルシアが映る。 「7人全員の失踪までの経歴を調べました。 まず7人共、凄く頑張り屋の優等生。 全員子供時代からモデルの仕事を始めているけど、ちゃんと学業と両立させて大学も留年や休学すること無く卒業してる。 補導歴も逮捕歴も無いし、酒や薬物の問題も無し。 タバコすら吸わないしね。 家族もこれぞ理想の家庭って環境。 親の仕事は弁護士や教師やエンジニアで、小さいけど地元で不動産会社を経営していたりと経済的にも安定してます。 親とも仲が良いけど兄弟仲が良くて、SNSで頻繁にやり取りしてるけど、その内容もかわいいもん。 家族は全面的に被害者がモデルで成功することを協力してる。 但し、学業を疎かにしないのが条件で。 全員が大学生になってからも親に成績を逐一メールで報告してるんです。 だから遅咲きなのかも! モデルとしての大仕事が入ったのは、普通のモデルよりかなり年上だから」 「その大仕事が入った直後に失踪してるんだな?」とロッシ。 ガルシアが即答する。 「そうです。 皆パリコレやミラノコレクションでハイブランドの専属モデルに抜擢されたり、年間専属モデル契約、つまりブランドの顔ですね、そういった契約を結んで渡欧する一週間から十日前に失踪してます。 今、分かっているのは以上!」 「ガルシア、ストーカーから軽い付きまといまで、過去に被害に遭った経験が無いか確認してくれ」とホッチナーが言うと、「了解です!」とガルシアが答えて画面が切り替わる。 ホッチナーが皆を見渡す。 「犯人は性格や生い立ちや行動まで『理想』を求めているようだな。 モーガンとブレンティスは遺体の発見現場へ。 俺とロッシとリードはランディ・ミラーが所属していた事務所の社長に面談だ。 JJはいつも通り警察署で渉外とマスコミの対応を頼む」 するとモーガンが「リードは地理的プロファイリングを先行してもらった方が良いんじゃねぇかな?」と提案した。 「何故?」とホッチナーが訊く。 エミリーも「私も賛成!被害者はカリフォルニア州全土に遺体をばら撒いてるでしょう?だから地理的プロファイリングを先に進めておけば、犯人の安全圏が絞れて捜査に有利じゃないでしょうか?」とさり気なく付け加える。 ホッチナーが腕を組むと、「リード、地理的プロファイリングは何時間くらいかかる?」と言うと、リードはファイルをパラパラと見て「場所は分かってるし、んーと…2時間かからないと思う」とアッサリ答える。 モーガンとエミリーとJJがキッとリードを見るが、リードは気付かずファイルをザーッと速読している。 ホッチナーが頷く。 「じゃあ問題無いな。 相手はハリウッドで成功しているモデル事務所の社長だ。 海千山千の強者だろう。 こちらの年齢がバラバラの方が、相手が話しやすい可能性が高い。 以上だ」 全員がロサンゼルス市警察に到着すると、署長と担当のフェルトン刑事が出迎えてくれた。 リード以外のメンバーそれぞれが握手を交わすと、フェルトン刑事がBAUの為に用意してくれた捜査本部用の会議室に移る。 BAUのメンバーが荷物を置くと、フェルトン刑事が言った。 「では早速ですが遺体発見現場にご案内します。 今、毒物検査を改めて詳しく行っておりまして、時間が掛かりますから」 モーガンとエミリーが「お願いします」と言って、フェルトン刑事と共に本部を出て行く。 BAU専用のSUVを走らせて直ぐに、モーガンが言った。 「ホッチのヤツ、リードを叩き直す気満々だぜ」 「そうみたいね…。 実は私、あの時ホッチと目が合ったんだけど、本気の目だった。 リード、大丈夫かな…」 「俺達もやることやって、リードのフォローが出来るようにするしかないな」 「そうだね! 頑張ろう!」 モーガンとエミリーが頷き合った。 ホッチナーとロッシとリードはかれこれ1時間、ラ・ヴレ・ボーテ・マネジメントの応接室に居た。 「何時間待たせれば気が済むんだ? そろそろ俺も限界だぞ」 ロッシのイライラとした口調にホッチナーが苦笑いする。 「そうですね。 秘書に催促して来ます」 ホッチナーが立ち上がろうとすると、リードがパッと立ち上がった。 「僕が行って来る!」 「リード…」 ホッチナーがジロッとリードに目をやる。 「お前、退屈だからって廊下に飾ってあった古書のコレクションを見たいんじゃないだろうな?」 「全然!」 リードはニカッと笑ってそう言うと、素早く応接室を出て行く。 ロッシが笑う。 「あれは絶対見る気だな」 「そうですね」 ホッチナーも思わず笑うと、リードが出て行ったドアとは別のドアが開いた。 パンツスーツを着た女性が入って来て、申し訳無さそうに言った。 「遅くなりまして申し訳ございません。 只今アルマンが参ります」 すると「だから何度言わせるの!?ジャンも明日出発させなさい!ええ、そう!だったらクビだと言いなさい!」というけたたましい声と共に、スマホを耳に当てた四十代半ばの女性が同じドアから入って来た。 ブロンドの髪をきっちりと巻き上げ、ゴージャスなスーツにピンヒールで自信たっぷりに歩いて来る。 そしてホッチナーとロッシの前に来ると、ポンっとスマホをソファに投げた。 そしてにっこり笑うと、「社長のシャーロット・アルマンですわ。確かFBIの方でしたよね?ランディが見つかったとか?」と言うと、ホッチナーとロッシに握手をさせる隙きを与えず、ピシャリと音がするようにホッチナーとロッシのそれぞれの前に名刺を置いた。 ホッチナーが「そうです。遺体で発見されました」と冷静に答える。 「そう、残念ね」 シャーロットはそう言って、ドアに控えていたパンツスーツの女性に「聞いたでしょ?ランディが死んだの!飲み物を用意して!」と怒鳴りつけた。 ロッシが「飲み物はいりません。話を聞かせて下さい」と言う。 シャーロットがホホホと笑う。 「何かおかしいんですか?」とホッチナーがまた冷静に訊く。 「FBIって冷たいんだな、と思ったの。 ランディが死んでも献杯もして下さらないの?」 するとパンツスーツの女性が戻って来て、三人の前にウィスキーの入ったグラスを置いた。 「さあグラスをお持ちになって」 シャーロットがホッチナーとロッシを値踏みする様に見る。 ホッチナーがそれでも冷静に返す。 「アルマンさん。 ランディ・ミラー氏の死を本当に悼むのなら、事件解決の為に彼の話を聞かせて下さい」 「話すことなんて無いわ。 うちに何人の男性モデルが所属してると思うの? 社長の私が一々モデルを覚えている訳が無いでしょう?」 「いや、あなたは覚えている」とロッシが断言する。 「ランディを覚えているから、あなたは我々に会う事にした。 本当に覚えていないなら、面会を申し込んだ時、そう言って断ればいい。 だがあなたはそうしなかった」 シャーロットがグラスを掴んで、「馬鹿馬鹿しい!それも分析!?」と言ってグラスに口を付けた時だった。 ドアが開いてリードが入って来た。 シャーロットの目が見開かれる。 「ホッチ、社長はもう応接室に居るって…あ、居た!」 リードがソファに向かって歩いて来る。 するとシャーロットが震える声で言った。 「…あの子は誰…?」 ホッチナーが訝しげに答える。 「彼はドクター・リード。 私達と同じ、FBIの特別捜査官で、我々行動分析課のメンバーです」 リードがシャーロットに向かっていつもの様に、少し手を上げる。 シャーロットの手からグラスが落ちて、粉々に砕け散った。 「検死報告書が届いたの。 勿論前回よりも詳しく調べられた最新の物。 それによると新情報が一点あるんだけど、これが信じられないんだよね。 なんとランディ・ミラーの血中から出たコカインは純度93‰だったの!」 ガルシアの言葉にモーガンが「純度93%!?ガルシア、ホッチにも連絡入れといといてくれ」と声を上げる。 「分かった! また何か分かったら連絡する」 「サンキュ、ベイビー」と言って、スピーカーにしていたスマホをモーガンが切る。 本部にいたプレンティスもJJも言葉を失ってモーガンを見ている。 モーガンがそんな二人に言う。 「純度93%って…そんなヘロイン、相当の上客じゃなきゃ手に入んねぇぞ。 売人だってそこらのストリートを縄張りにしてる様なヤツじゃない。 限られたごく一部だ」 プレンティスが頷く。 「そうね。 東欧なら兎も角、そもそもアメリカで入手するのは難しい。 モーガン、検死局に行ってみない? 何か引っ掛かる」 「ああ、行ってみよう。 JJ、ランディ・ミラーの遺族はいつ来るんだ?」 「明日の朝一番。 家族全員で来ることにしたらしいから、今日は無理だったの」 「じゃあやっばり今しかねぇな。 行って来る」 「了解。 ホッチ達が戻ったら伝えておく。 でもその前に見て欲しい物があるの」 JJがテーブルに写真を並べていく。 それは鑑識が撮った現場の遺体の顔写真だ。 「うちに送られて来た顔写真には、検死済みの状態のアップ写真だけで、現場の顔写真のアップは無かった。 さっきフェルトン刑事が急いで届けてくれたの」 プレンティスが写真を一枚掴むと、口元を片手で抑える。 「……嘘でしょう…」 モーガンも「マジかよ…」と呟く。 JJがふうっと息を吐くと言った。 「フェルトン刑事も私達が到着して驚いたみたい。 こうして自然光の中だと、良く分かるでしょう?」 モーガンが絞り出すように言った。 「ああ、リードに似てる」 プレンティスが厳しい声で、「似てるなんてもんじゃない。そっくりだわ」と言って写真をぎゅっと握り締めた。 ホッチナーとロッシとリードがロサンゼルス市警察に戻ると、モーガンとエミリーも検死局から戻ってJJと共に三人を待っていた。 プレンティスが「随分時間が掛かりましたね」と言うと、ロッシが「1時間待たされた挙げ句、意外な展開になってな」とため息混じりに答える。 「意外な展開って?」と訊くモーガンにホッチナーが「まずはガルシアだ」と答える。 ホッチナーが「ガルシア、どうだ?シャーロット・アルマンの経歴は調べたか?」と言うとガルシアがパッとパソコンの画面に現れた。

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