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第6話
「調べましたよ〜!
まずアルマン家はロサンゼルスで四代続く名門で、一族は男子全員が医者という徹底ぶりです。
勿論女子も医者が多いですが、シャーロットはイェール大学を主席で卒業して弁護士になりました。
ただ相当かわいかったんでしょうね〜赤ん坊の頃からモデルをやっていて、その後も趣味の範囲で大学に入学するまでモデルを続けてました。
それで順調に弁護士街道を走っていたんですが、33才の時、父親の援助でモデル事務所を開業。
これが大当たり!
ハリウッドのモデル事務所の中では、会社はそこまで大きく無いですが、それは質の高いモデルを厳選しているのが理由。
モデルに対しても生活態度に厳しくて、酒や薬物問題を一回でも起こしたら即クビにしています。
開業以来黒字続きの右肩上がりで、税金の滞納などもありません。
現在45才、独身!
結婚歴無し。
子供もいません。
それと2才年下の弟のトラヴィスについても調べて置きました!」
「流石だな、ガルシア」
「当然ですよ〜!
そもそもシャーロットの父親はアルマン家の長男で医者ですが、今は総合病院を経営しています。
シャーロットは四人兄弟の三番目でたった一人の女の子。
上の兄二人も末っ子の弟のトラヴィスも医者です。
それで凄いのが、このトラヴィスくん!
三人の男兄弟の中でも一番優秀!
ハーバード大学卒で外科医師になり、なんと32才という若さで大学病院の外科部長まで登り詰めています。
ところが癌患者に接するうちに外科医師の能力だけでは力不足という理由で、精神科医の資格も取っています。
それと12年前にシャーロットの片腕としてシャーロットのモデル事務所の役員に加わっていて、シャーロットの会社の資産を投資で増やしていて、投資家としても有名です。
今は大学病院の理事の一人になっていますが、患者から指名されて手術を行うこともしばしば。
それとスポーツマンとしても有名で、地元のトライアスロンの大会で何度も優勝しています。
あんたはスーパーマンかって感じで活躍しまくっています!
地元の名士ですね」
「患者やシャーロットの会社の他の役員とのトラブルは?」
「皆無!
トラヴィスは誰にでもやさしいと評判で、保険が利かない患者でもあらゆる機関に働き掛けて最高の手術を受けられるようにしたり、その後の精神的なケアまで請け負ってます。
モデル事務所の方でも、シャーロットが売れると見込んだ子には、収入が少ない内は住む場所を与えてやった方が良いと進言して、シャーロットのモデル事務所専用のアパートを買っています。
トラヴィスが投資で増やしたお金で買い取った物で、シャーロットも乗り気で、今もアパートを所属モデルに無償で提供しています。
トラヴィスも現在43才で結婚歴無しの独身。
子供もいません。
今はこんなところです!」
「シャーロットにもトラヴィスにも犯罪歴は無いんだな?
未成年時代にも」
「有りません。
経歴がピカピカ過ぎて目眩がしそうですよ〜!
トラヴィスに至っては駐車違反すらしたこと有りません」
「ありがとう、ガルシア。
トラヴィスの写真を送ってくれ」
「もう送りました!
では!」
ガルシアがパソコンから消えて、皆が一斉にタブレットを見る。
リードはJJのタブレットを覗いている。
そこには金髪の髪を綺麗に撫で上げた、顔立ちの整ったまるで俳優のような男性の画像が映っていた。
「それで?このアルマン社長姉弟を何故調べさせたんだ?」とモーガンが訊く。
ホッチナーが「それは」と言ってシャーロットにホッチナーとロッシが会ってからと、シャーロットがリードに会ってからを説明した。
エミリーが眉を顰める。
「そんなボス猿タイプの女性が、リードを見ただけで驚いてグラスを落としたんですか?」
ロッシが頷く。
「そうだ。
そしてこれからはドクター・リードとしか話さないと言い出した。
俺とホッチにはどうぞロビーでお待ち下さいってな」
「それでどうしたんすか?」とモーガンが急かす。
ホッチナーが苦々しい顔になる。
「ランディ・ミラーの失踪時を詳しく知るのは彼女だけだ。
だからリードを残して話しをさせた」
リードがあっけらかんと「うん、そう」と付け加える。
「それで?
シャーロットは何だって?」
詰め寄るモーガンにリードは不思議そうに答えた。
「大した話はしてないよ。
僕の学歴の話とか興味のある分野とか…。
僕の話ばっかりだったから、風向きを変えようと廊下に陳列してあった古書の話を振ったら物凄く楽しそうに説明してくれて。
それでランディの話は、今はショックが大きくて心の準備が出来ないから、明日ランディの追悼の為に弟と食事会を開くので、その時に話したい、是非来て欲しいって招待された。
但し僕だけね」
「それでお前は何て答えたんだよ!?」
「行くって。
シャーロットはホッチやロッシには失礼な態度を取ったかもしれないけど、本当は無理してたんだよ。
ランディの死を受け入れられなくて。
僕にはやさしくて、僕が話しを脱線してもニコニコして最後まで話しを聞いてくれて、ランディの追悼の食事会の話になったらお化粧が崩れちゃうくらい泣いてたし。
パリ行きだって1週間も伸ばしたんだよ。
ランディのお葬式に出席したいからって」
「…だけどな!」
ホッチナーがモーガンに「何を焦ってる?」と訊く。
「これ見てくれ!」
モーガンがそう言って、現場写真のランディの顔のアップの写真をデスクに叩き付ける。
ホッチナーとロッシがぎょっとして写真を手に取る。
「俺とプレンティスとJJにはリードにそっくりに見える!
ホッチとロッシは!?」
ロッシが深く頷く。
「確かに。
そっくりだ」
ホッチナーも「そうだな」と頷く。
エミリーが気まずそうに口を開く。
「私とモーガンで検死局に遺体を確認に行って来たんですが、実はランディはメイクをしてたんです。
メイクを取ったら、顔の骨格は確かにリードに似ていますが、そっくりという程ではありませんでした」
ホッチナーの写真を持つ手に力が込もる。
「つまりリードそっくりの『誰か』に犯人が似せようとして、メイクまでさせていたという事か」
モーガンが厳しい声を出す。
「そうだよ!
つまり『理想の外見』がリードそっくりってことだ。
それなのにリードを一人歩きさせていいのかよ!?
犯人はこのハリウッドで次の獲物を探してるんだぞ!?」
リードがキョトンとすると、笑顔で言った。
「僕なら大丈夫!
シャーロット・アルマンの家で食事してランディの話を聞くだけだし」
「ホッチ!
マジでリードを一人で行かせるつもりか!?」
「落ち着け、モーガン。
相手は一般人だ。
それにランディは一番最近の被害者で、被害者の中で失踪期間も一番長い。
ランディが犯人に『選ばれた』理由が分かれば、犯人のプロファイリングを早期に完成する手掛かりになる。
それにはその時一番身近に居たであろうシャーロットから話を聞くのが有効だ。
幸いシャーロットはリードの外見のせいもあるかもしれないが、リードには心を開いている。
話している内に忘れていた記憶を思い出すかもしれない」
モーガンがフッと息を吐くとホッチナーを指差した。
「分かったよ。
あんたがそう言うなら反対はしねぇ。
但しリードの送り迎えは俺がやる。
食事会とやらが終わるまで、家の近くで張ってるから」
リードが可笑しそうに「モーガンの心配性」とボソッと言う。
モーガンがリードの肩を抱いてぐいっと引き寄せる。
「苦しいよ、モーガン!」
「うるせぇ、小僧!
お前とベイビーを守るのも俺の仕事なんだよ!」
「僕、ガルシアと同じなの!?」
「違うと思ってたのか?」
「JJ!モーガンが苛めるよ!」
「はいはい、二人共落ち着いて。
コーヒーでも飲んだら?
ここエスプレッソマシンがあるから」
「やったあ!
モーガン、コーヒー飲もっ!」
「仕方ねぇな〜」
モーガンが腕の力を緩めるとリードの肩を抱いて本部を出て行く。
JJが肩を竦めるとホッチナーを見る。
「モーガンの心配も分かります。
私もその写真を見た時、ゾッとしましたから」
「俺だってゾッとしたさ」とロッシも苦笑いになる。
「だが今はリードに話を引き出させるしか無い」
そう言うホッチナーにエミリーが静かに話し出す。
「でもアルマン姉弟は経歴が立派過ぎるというか…。
少し違和感がありますけど」
「君だって大使のお嬢様だったんだ。
こういう上流階級の人間に出会ったことはあるだろう?」
「それは…ありますけど。
皆、大なり小なり家族や家系のプレッシャーを感じていました。
でもこの二人からはそういう迷いが全然感じられない」
ロッシがポンッとエミリーの肩を叩く。
「それはコンピューター上の経歴がってことだ。
現にシャーロットは、俺やホッチには強気だったが、ランディに似たリードには本音を出した。
あの女王様がメイクが崩れる程泣いたなんて信じられんよ」
「そう…ですね」
エミリーはそう言うとJJを見た。
それからBAU全員がそれぞれの仕事を進めていると夜の8時になった。
ホッチナーが今日はここ迄にしようと言い、全員でホテルに移動する。
ホテルではフェルトン刑事がわざわざ星付きレストランの食事をデリバリーしてくれていた。
皆、食事を受け取り、各自の部屋へ向かう。
モーガンとエミリーとJJ以外は。
三人は一度部屋に入り荷物を置くと、食事を持ってモーガンの部屋に集まった。
三人が揃うとモーガンが口を開く。
「ホッチのヤツ、いくらリードを叩き直すつってもやり過ぎじゃねぇか!?」
エミリーも「私も心配。だってリードは余りにも被害者に似すぎているし、明日会うっていう姉弟もボス猿タイプ丸出しの経歴だし。そんな二人がリードに会う理由はたった一つ。ランディの思い出に浸りたいって欲求だけよ。こっちに協力する気なんてサラサラ無いんじゃないかな」と断言する。
JJも心配そうに言う。
「それにモーガンがリードの送り迎えをして、家の前で食事会が終わるまで張るって言うまで、ホッチはそんなこと一言も言わなかった。
つまり初めからリードを一人で行かせて一人で帰らせるつもりだったってことでしょ?
それにもしアルマン姉弟のモデルがまた狙われていて、アルマン姉弟が犯人に見張られていたら?
そこにスペンスが現れるんだよ?
考えるだけで怖いよ」
モーガンがふうっと息を吐くと、二人を励ます様に言う。
「明日は俺が必ずリードを守る!
ただ何でホッチがリードに怒ってるのかが分かんなきゃ、手の打ちようがねぇ。
それにリードは恋愛に目覚めたところなのに、その上ホッチからこれ以上プレッシャーかけられたら、折角の恋愛も壊れちまうかもしれない。
俺もやってみるから、二人もホッチが『今』も怒る様なリードの過去の失敗を探ってみてくれ。
ガルシアには俺から頼んどく」
エミリーとJJが同時に「OK!」と言った。
リードはその頃、ゆっくりとバスタイムを満喫していた。
食事は1/3程食べたら満足してしまったので、風呂を優先したのだ。
JJが別れ際にくれた泡立つ入浴剤を使ったので、もこもこの泡が気持ち良い。
そうして髪と身体を念入りに洗って、最後のシャワーを浴びているとチャイムが鳴った。
リードが慌ててシャワーを止めてバスローブを着ると、またチャイムの音がする。
リードはモーガンだろうと思い、「分かったってば〜!」と言いながらバスタオルを頭をから被るとまだ濡れた足でスリッパを履く。
またチャイムが鳴る。
また。
リードが覗き穴も見ず、ドアを開く。
するとホッチナーが立っていた。
ホッチナーは定番のスーツ姿では無く、ラフなシャツにチノパン姿だ。
「ホッチ…?
どうしたの?」
ホッチナーが「全く…!お前は!」と苛立った様に言うと、リードの身体をひょいと抱き上げ、部屋に入るとそのままスタスタと歩き出す。
「ホ、ホッチ?
なに?
なにか…わっ!」
リードの身体がベッドに投げ出される。
「ホッチ…?」
次の瞬間、リードの身体にホッチナーが覆い被さり、激しく唇が合わさった。
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