10 / 31

第9話

「ランディも両親が金銭面で協力していました。 両親は生活費と家賃を全面的に援助していて、ランディはモデルのオーディションや仕事を優先する為にアルバイトすらしていません。 両親は、ランディは無駄遣いをしていないと言っています。 カードの履歴や口座を調べてくれれば分かるとも。 そこでガルシアに調べて貰ったら、確かに無駄な支出は無く、残高も1500ドル近く有りました。 それとランディには12才年上の姉と10才年上の兄がいて、生まれた時から家族の愛情を一身に受けて育っています。 ランディがハリウッドに移ってからも、姉と兄はまめにランディに会いに来ていました。 姉と兄によると、ランディはモデルとして成功することに夢中で、恋人も作らず、ストーカーに遭ったことも無いと断言しています。 それからランディは大学を卒業した時、上位5%の成績優秀者でした。 それにランディが失踪して警察が家出人と処理しても、一家は納得していませんでした。 今回、こんな形でランディが発見されて、警察に対して激怒しています」 ロッシが「激怒と同じ位、悲しんでいるしな」と付け加える。 ホッチナーが頷く。 「犯人は被害者の『理想の外見』だけでは無く、生い立ちや生活状況、行動まで『理想』を求めていることが判明したな」 モーガンがホッと息を吐く。 「じゃあリードは安全だな! リードのお母さんは病院に入院しているし、アイツは唯一無二の天才人生を歩んでいる。 被害者の家庭環境や生い立ちと共通点は無い」 するとロッシが重々しく口を開いた。 「だと良いがな。 犯人は『理想の外見』に一番の拘りを見せているが、自分に釣り合う内面も持つ相手を探している可能性がある。 『理想の外見』を持ち、尚且自分が許せる範囲の教養や知性を持つ相手を探していたら、自然と家庭環境に恵まれている相手に辿り着いたんだ」 ロッシの言葉にJJが真っ青になる。 「リードは『犯人の理想』の外見をしていて、教養だって知性だってきっと犯人以上にあります! それにリードは犯人が教養や知性を試そうとして質問をしたら、絶対に答える。 リードは質問をされたら答えずにはいられないんです! スペンスは今何処ですか!?」 ホッチナーが本部の奥の小さな事務所に視線をやると、ガラス扉の向こう側でリードがファイルに没頭しているのが見える。 「リードを何故本部と隔離したんですか?」とエミリーが訊く。 ホッチナーが即答する。 「リードの希望だ。 アルマン家に行く前に、ファイル以上のランディの情報を知りたく無いと言って。 食事会ではアルマン姉弟にランディについて話させなくてはならない。 それには自分が質問する側になるから、余計な情報を頭に入れたく無いというのがその理由だ。 それからモーガン」 「何だ?」 ホッチナーが黒い無線機の様な形状の物をテーブルに置く。 「リードに緊急時用の送信機を持たせた。 お前はこの受信機を持っていてくれ。 受信範囲は50メートル以内。 リードが送信機のボタンを押せば、この受信機からアラーム音がして赤く点滅する。 そうなったらアルマン家に突入しろ」 「分かった。 サンキュ、ホッチ!」 「アルマン家に正当な理由無く銃は持ち込めないだろうからな。 リードを頼む」 「了解! 俺に任せろ」 モーガンが受信機を掴むとホッチナーが皆を見渡した。 「これまでの情報からして、犯人はまず『理想の外見』の持ち主を探し出し、『理想の内面』かどうかを必ず確認している筈だ。 だが今のところ、ストーカーの線は見当たらない。 だとしたら一見無害な人間が被害者に接近したことになる。 但し、被害者達はモデルとして成功する事を第一として生活していた。 被害者に取ってモデルとして有益な人間でなければ、家庭環境や収入面を詳しく話したりしないだろう。 その点を重視して、第2の被害者から第6の被害者までを、ここハリウッドの生活について手分けして調べよう。 JJはもう一度ランディの遺族に会って、『一見無害だがランディがモデルとして成功する事に協力的だった人物』がいなかった確認してくれ。 但し、協力的『だけ』では無く、『有益』であることが条件だ」 JJが「はい」と答え、本部を出て行った。 17時30分。 リードがホテルの自室で「…こんなもんかなあ…?」と言って礼服一式を身に着けると、モーガンの前に立った。 モーガンが「おっ!流石プリティボーイ!良いじゃねぇか!本物のモデルみたいだぞ!」と言って立ち上がると、スマホでパシャパシャとリードを撮りだした。 「ちょっと! 止めてよ、モーガン! 僕の写真なんか撮ってどうする気!?」 「ベイビーが拗ねてんだよ。 『あたしだけリードのバッチリ決めた姿を生で見られないなんて!』『絶対写真を撮って速攻で送信して!』って留守電が25件も入っててさ」 「それならまあ良いけど…」 リードがボソッと言うと、モーガンが「ほらよ」と言って紙袋からブーケを取り出した。 ブーケには色々な種類の花が使われているが、色は全て白で統一されていて、白いリボンで束ねられている。 リードが不思議そうに「それなに?」と訊く。 「JJが用意しといてくれた。 ランディを悼む食事会に招待されたんだから、何か手土産を持って言った方が良いって。 だけどアルマン家に手に入らない物は無いだろうし、お前はそもそもランディを知らないんだから、花束くらいが丁度良いって」 「でもこれブーケだよ?」 「でっかい花束を持って行く方が不自然だ。 ブーケはシャーロットに渡せ。 お前はランディを知らないんだから、シャーロットを慰める為に持って来たと言って。 シャーロットはお気に入りのお前から同情されれば、絶対に喜ぶ。 ランディについて話させるチャンスが増えるってことだ。 それと送信機は持ったか?」 「ジャケットの内ポケットに入れてある」 「良し! じゃあ出発だ」 「うん!」 そうして二人は地下駐車場に停めてあるFBIのSUVに乗り込んだ。 モーガンが運転するSUVは、18時5分前にアルマン家の正面玄関から300メートル先に到着した。 リードがブーケを持って助手席から降りる。 モーガンが「車はアルマン家の正面玄関近くに駐車しておく。危険だと少しでも感じたら必ず送信機のボタンを押せよ。それから屋敷の奥に誘われても行かないようにしろ。受信出来るのは50メートル以内だからな」と厳しい声で言う。 リードは「分かってるってば!ありがと、モーガン」と笑顔で言って車のドアを閉めると、アルマン家に向かって歩き出す。 か細い背中にモーガンが「リード、頑張れよ」と呟いた時だった。 モーガンのスマホが鳴った。 モーガンが「ようベイビー、リードの礼服姿はどうだった?」とスマホを耳に当てて言う。 『超カッコよかった! 超可愛かったし、もう最高!…じゃなくって! あたしホッチの怒ってる理由が分かっちゃったかも!』 「マジかよ!? 流石だな、ベイビー! それで理由は?」 『あのね…』 ガルシアは一呼吸置くと話し出した。

ともだちにシェアしよう!