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第14話

「ちょっと〜あたしのココア! 情報の海を泳ぐマーメイドを舐めてもらっちゃ困るわよぉ〜!」 ホッチナーが「ガルシア」と低く言う。 「はいっ!ボス! そんなボランティアを越えた慈善団体は存在しませんが、ちょっと面白い仕組みの美容サロンを見つけました! それがなーんとアルマン家に繋がっているんです!」 「続けろ」 「アンマン家の直系はシャーロットやトラヴィスの姉弟達なんですが、アルマン家の血をうすーーーく引いてる、そもそもアルマンの姓では無い末端の人物が、美容院とエステサロンを合体させたような会社をハリウッドで経営してるんです。 このサロンに行けば、ヘアスタイルをチェンジしたついでにエステもしてネイルサロンにも行けて、ビルを出る頃には全身綺麗になっちゃってるっていう。 因みに男性はエステは受けられません。 で、面白いのが支払い方法! 勿論キャッシュカードの支払いだけでもOKなんですが、このサロン専用のカードとキャッシュカードを紐付けしておけば、ポイントが自動的にどんどん溜まって次に来店する時に1ドルから使えるんです。 それにサロン専用のカードに現金でチャージする事も出来るんです! つまりキャッシュカードの明細が届かないから、夫や家族に知られることも無く美容に好きなだけお金をかけられる! 商売上手ですよね〜」 「つまり犯人が現金をチャージしたサロン専用のカードを被害者に渡せば、被害者は自分の金を使わなくても自分の容姿を磨ける。 モデルなら食いつくな。 顧客リストに被害者達の名前は有ったか?」 「有りません。 それにもし現金がチャージされたカードを使用していたのなら、本名を名乗らなくても良いですし、エステを使用しなければ特に契約を交わす必要も有りませんから」 「ハリウッドに何軒ある?」 「4軒です! 社長の氏名と住所と電話番号、サロンの名前と4軒の住所と電話番号を送りました!」 「ありがとう、ガルシア。 休んでくれ」 「はい! おやすみなさい!」 プチッとパソコンの画面からガルシアが消える。 するとリードが「そうか!」と言って立ち上がった。 「何の収穫も無い食事会だと思ってた…。 でも違った!」 ホッチナーがリードに視線を移す。 「リード、落ち着け。 何だ?」 「トラヴィス・アルマンです! 咽び泣いたシャーロットを慰めた時に、トラヴィスは僕を見て『姉さん、ドクター・リードを見て。髪も目も栗色だ。ランディと同じだよ。』と言った。 でもランディが発見された時も、髪を染められていた被害者の写真を見た時も、僕達は目も髪も『茶色』だと思った。 でもトラヴィスは違う。 ランディの目と髪は『栗色』だと認識している。 細かい拘りです! それにシャーロットも否定しなかった。 あの姉弟にはランディに深い思い入れがある。 ランディが狙われた理由を知っているのかもしれません」 ロッシが腕を組む。 「ランディに深い思い入れがあって、狙われている理由を知っているのに、何故情報を渡さない? ランディを殺した犯人が憎いだろう?」 エミリーが即答する。 「末端と言えどもアルマン一族の会社が犯人に利用されていたのを知っているからかも! 恥だと思ってるんじゃないでしょうか? 名家には有りがちな理由です」 ホッチナーが鋭い目をして言う。 「それならそのサロン、または似た仕組みのサロンに出入りしていて、現金がチャージされたカードを使用している茶色の目と髪を持つ20代でモデルの男性を調べれば、次のターゲットが絞れるだろう。 髪が茶色では無くても目の色は茶色だ。 変えようが無いからな。 プロファイルが固まったな」 ホッチナーの言葉に全員が頷いた。 ホッチナーの部屋を全員が出て行こうとした時、「リードは残れ」とホッチナーが言った。 リードがドアから離れるとホッチナーが静かにドアを閉める。 モーガンが廊下を歩きながら、ホッチナーの部屋に振り返る。 「ホッチもリードも大丈夫か?」 JJが笑顔でモーガンに「大丈夫!メッセージ読んだでしょ?」と言う。 「ホッチは酔っ払ったスペンスの世話を、集合時間ギリギリまでずっとしててくれてたんだよ? 自分の行動を反省したんだと思う。 そしてスペンスもそれを受け入れた。 受け入れて無かったら、一度起きた時にホッチを部屋から追い出してる」 エミリーも笑顔でモーガンの脇腹を肘で軽く突く。 「かわいい弟くんが心配なのは分かるけど、ホッチならミスをそんなに重ねないって! モーガンだってリードにハーバード大学からあんな好条件な引き抜きがあったって知ったら動揺するでしょ?」 「……まあな」 「明日プロファイルを発表して犯人を逮捕出来ればDCに帰れる! そうしたらガルシアの毒をもって毒を制す作戦でホッチに駄目押しすればもう安心! でしょ?」 JJがそう言うと、モーガンも笑う。 「だな! まずは犯人逮捕に全力で取り掛かるか!」 リードがドアの横の壁を背にしてホッチナーを見上げる。 「えっと…何ですか?」 ホッチナーがフッと笑う。 「仕事はさっき終わっただろう? これからはプライベートだ。 敬語は止めてくれ」 リードがポッと赤くなる。 「…うん。 じゃあなに?」 ホッチナーがリードの顔の脇に片手を付く。 「…ホッチ?」 「お前の部屋のベッドはぐちゃぐちゃだろ。 今夜はここのベッドを使え。 俺はソファで寝るから心配するな」 ホッチナーはそう言うとリードから離れて、パソコンに向かう。 リードは立ち尽くしたまま、小さく「ホッチ」と呼ぶ。 ホッチナーがパソコンに向かいながら、「何だ?」と訊く。 「気を使ってくれてありがと。 おやすみなさい」 リードは真っ赤な顔でそう言うと、ベッドルームに向かう。 ホッチナーはリードがベッドルームのドアを閉めると、ホッと安堵の息を吐いた。 ホッチナーはまだ体力が残っているが、リードはきっとクタクタだ。 だがそんなリードに手を出さない自信が無い。 そうしてホッチナーが雑念を追い払い、仕事に集中して30分を過ぎた頃、ベッドルームのドアが開く音がホッチナーの耳に届いた。 ホッチナーが素早く立ち上がり、足早にベッドルームに向かう。 すると、ベッドサイドのランプを点けただけのベッドルームのドアの前に、リードが立っていた。 迷子の子供のように。 「ホッチ…どうして…?」 リードは上目遣いの瞳を潤ませて呟く。 「俺が何かしたか?」 ホッチナーの声が掠れる。 「どうして…? 同じ部屋に居るのに…どうして僕を一人ぼっちにするの…? 僕を好きだって言ったのは嘘?」 ホッチナーがリードの目を見てキッパリと言う。 「嘘なんてついていない。 俺はお前が好きだ」 「じゃあさっきみたく腕枕して。 僕が眠るまででいいから…」 「…リード、それは…今は出来ないんだ」 お前の為に、とホッチナーは言葉を飲み込む。 するとリードがホッチナーの横をすり抜けた。 「じゃあ自分の部屋に帰る」 「なぜ?」 ホッチナーが慌ててリードの後を追う。 「一人の部屋にいれば一人ぼっちなんて思わなくて良いから」 「だがベッドが」 「ぐちゃぐちゃ? 僕だってソファで寝られるから! 飛行機の中じゃいつもそうだし」 リードがドアノブに手を掛ける。 すると身体がふわりと浮いた。 リードが見上げると困った顔をしたホッチナーと目が合う。 「…ホッチ?」 「分かった。 俺の負けだ。 一緒に寝よう」 リードがホッチナーの首に手を回し「うん!」と答える。 ホッチナーがリードをお姫様抱っこしながらスタスタとベッドルームに向かう。 リードが嬉しそうに言う。 「ホッチ! さっきみたく裸で寝ようよ。 ホッチの身体あったかいから、直ぐに眠れると思う!」  ホッチナーは思わずリードを腕から落としそうになった。

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