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第19話

午前7時30分。 FBIの地下駐車場でモーガンとエミリーがバッタリと出会う。 「おう」と言って片手を挙げるモーガンはまだ眠そうだ。 エミリーがモーガンの横を歩きながら「そろそろ教えてよ」と言う。 モーガンが笑う。 「何をだよ?」 「分かってる癖に! 昨日の夕食よ。 リードをどうやって説得したの?」 「大したことはしてねぇよ」 「じゃあ教えてよ」 エミリーがそう言ってエレベーターのボタンを押す。 モーガンがチラリとエミリーを見ると、爛々と目を輝かしたエミリーと目が合う。 モーガンが諦めた様に口を開く。 「頼んだんだよ。 今付き合ってる彼女がエスニック料理が好きなんだけど、目ぼしい店は行き尽くしたからインド料理なんかどうかなって。 今週末にデートするから出来れば今夜連れてってくれって」 エミリーが感心した様子で頷く、 「そっか〜! つまり仕事や健康の心配とかと無関係で誘ったんだ」 「そういうこと! あの時のアイツに仕事を持ち出したり、身体の心配を持ち出したりするのは禁句だったんだよ。 だってそれで失敗して落ち込んで食欲無くしてたんだから。 それでリードがOKしてくれたから、お前とJJとガルシアも行きたいって言ってるって追加しただけ」 エミリーがニヤッと笑う。 「モテ男スキル発揮ってとこか〜流石!」 「何だそれ!」 今度はモーガンがアハハと笑うと、エレベーターがやって来た。 エレベーターに乗り込みながらエミリーが残念そうに言った。 「でも新たな殺人事件が起きたから、リードのハーバード大行きの誤解を解くのはまだ先になるね…」 モーガンがエミリーを励ます様に、エミリーの肩をパンと軽く叩く。 「今は事件の事だけ考えようぜ。 今回の犯行はサイクルが異常に早い。 それだけ犯人を早期に逮捕出来る。 それからだって遅くない」 エミリーが頷く。 「じゃあ次の犯行を行う前に絶対に捕まえてやる!」 モーガンが破顔する。 「それでこそエミリー・プレンティスだな!」 その時、エレベーターがBAUのある階に到着した。 モーガンとエミリーがBAUの本部に着くと、リードが自分のデスクに着いているのが見えた。 モーガンが笑顔でリードに声を掛ける。 「よう、リード! やけに早いな」 リードが手を忙しなく動かしながら、「そ…そんなことないよ」と答える。 エミリーが自分のデスクにバッグを置くと、リードをじっと見る。 「どうしたの? 何か緊張してるみたい」 リードがパッと席から立ち上がり、「まさか」と言って、そそくさとキッチンスペースに向かう。 リードはコーヒーを入れたマグカップに砂糖を目一杯いれると、深いため息をつく。 そして心の中で叫んでいた。 秘密工作なんて僕には無理だよぉ〜!と。 そして瞬時に今朝のトラヴィス・アルマンからの電話を思い出す。 『ホッチナー特別捜査官から頼まれたんです。 ストラウス部長から、内密にカリフォルニア州の連続殺人事件の調査を続行するが、チームリーダーのホッチナー特別捜査官では内密には動けない為、チームの人間をロサンゼルス市警察と連携にさせるように命じられて、それをドクター・リードにしたと。 だがロス市警察とドクター・リードが直接連絡を取れば、他のチームの人間に直ぐに気付かれてしまう。 そこで民間人を間に挟むことにした。 それでロス市警察とホッチナー捜査官との協議の結果、私が選ばれたんです。 ホッチナー特別捜査官からあなたへの最初の指示は三点。 私からの連絡の報告は不要。 あなたは私からの連絡を随時モバイル以外の物で纏めておき、ホッチナー特別捜査官から要求があった時のみ、報告すること。 例え二人きりであっても、ホッチナー特別捜査官から報告を求められなければ一言でも内密捜査について話してはならない。 以上です。 それと私は精神科医でもあります。 あなたのお母様の病気の件で連絡を取り合ってると周囲に思わせれば、周りも納得するでしょう。 それに私はあなたのお母様の御病気を実際に診察してみるつもりです。 今迄の治療を違った角度から診察してみれば、お母様がもっと快適に過ごせる時間が増えるかもしれない。 どうですか? 引き受けて頂けますか?』 ホッチの役にも立てて、お母さんの病気も良くなるかもしれない… だったらやらなきゃ… そう思ってYESって答えたけど… 皆に秘密にしなきゃいけないし、このミッションについては必ずトラヴィスを通さなくちゃいけなくて、ホッチとミッションについて直接話もしちゃいけないし… そんなこと僕に出来るかなあ… 「リード、なに黄昏てんの?」 ガルシアの声にリードがビクッと飛び上がる。 「たたた黄昏てなんて無いよ!」 ガルシアがニンマリと笑う。 「嘘つけ〜! あたしを誤魔化せるとでも思ってんの?」 「だから黄昏て無いって!」 「目が泳いでるよ?」 「泳いで無いよ!」 ガルシアがすすっとリードに近付くと小声で言う。 「あたしは分かってるわよ」 「……何を?」 秘密のミッションについてかとギクリとするリードを無視してガルシアが続ける。 「あんたの恋愛事情!」 「……はあ!? なに!? なんのこと!?」 「声が大きいって!」 「…ご、ごめん…でも…」 「いーから、いーから。 あたしはあんたの味方! でさあ、これだけ聞いておきたいんだけど」 「…な、なに…?」 「あんたから告白したの?」 リードの頭にホッチナーの囁きが蘇る。 『リード…好きだ…』 リードがボッと赤くなり「そんなことしてないよっ!」と言ってブンブンと首を横に振る。 その時、JJの声がした。 「リード、時間だよ。 会議室に集合して」 JJがリモコンを操作して画面を変えながら淀みなく説明する。 「事件現場はリッチモンドの中産階級の住宅街。 治安も良く、住民の殆どが定職に就いていて、今回の事件が起きるまで目立った犯罪は有りません。 犯行現場も死体遺棄現場も自宅のみ。 被害者は全員白人。 凶器は鋭利なナイフ。 刺し傷は一人につきほぼ30ヶ所。 死因は失血死。 侵入経路は分かっていませんが、玄関や裏口をこじ開けられた形跡は有りません。 三件とも黒っぽいピックアップトラックが立ち去るのを近隣住民に目撃されています。 ナンバーの目撃証言は無し。 リッチモンド警察も住人達もパニック状態で、我々の到着を待っています」 ホッチナーが立ち上がる。 「兎に角時間が無い。 直ぐに出発する。 リッチモンドなら1時間掛からない。 予備プロファイルは飛行機の中で行おう」 飛行機内でモーガンがファイルを見ながら話し出す。 「これはどう見ても無秩序型の犯罪者だろ。 犯行を隠している形跡がまるで無い。 血の付いた足跡が目撃されたピックアップトラックまで続いてる。 しかも犯行現場は周囲30キロ圏内だ。 多分犯人は犯行現場の近所に住んでいる。 そして犯人は長年精神を患っていて、そこにストレス要因が起こり、犯人にしか理解出来ない妄想が止められなくなって犯行に及んでるってとこだな」 エミリーがモーガンに被さる様に口を開く。 「でも指紋もDNAも残していないし、侵入だって鮮やかだわ。 それにガルシアによれば、犯行現場から周囲30キロ圏内に目を引く前歴者はいない」 「そこなんだよな〜」とモーガンがため息交じりに言うと、リードが早口で話し出した。 「JJは『住民の殆どが定職に就いている』って言ったけど、それなら定職に就いていない人間を探せば良いんじゃないかな? こんな精神状態で仕事が出来るとは到底思え無い。 それに相手は子供なのに30ヶ所も刺しているってことは、妄想が強烈で実行しなければ自分の命が危うい等の切迫した心理状態にある可能性が高い。 こんなに深刻な精神を患った人間と一緒に暮らせる人間はそういない。 近しい血縁者と暮らしているか一人暮らしだ」 ロッシが頷く。 「リードの言う通りだ。 それに指紋やDNAが出ないのは犯人が意図しているんじゃないのかもしれん。 たまたまそうなっただけなのかもな。 妄想の延長で手袋をしていなければいけないとか、帽子やパーカーを被っていなければならないなどの独自のルールの結果だ」 ホッチナーが「ですが」と慎重な声音で言う。 「これ程の犯行を行うには必ず特徴的な前歴がある筈です。 この犯行は長年蓄積された妄想の実現ですが、妄想を形作る過程で何かしらの犯行を必ず犯している。 それなのに記録が無いのはおかしい」 モーガンが「そうだよな」と言ってパソコンに向かって「ベイビー、頼みがある」と言うと、ガルシアがパッと画面に現れる。 「何でも聞いて!」 「犯行現場から半径30キロ圏内で、白人男性で無職の一人暮らしか家族に養って貰っている人間を探し出してくれ。 それから前歴の無い人間だ。 駐車違反なんかは無視して良い」 「無い人間?」 「そうだ」 「えーと…結構いるよ〜! もうちょっと絞り込めない?」 「だよな。 じゃあ前歴を消された人間」 「あのね〜いくらあたしが超有能だからって、消された前歴をどうやって探せって言うのよ!?」 「お前は世界一セクシーな魔法使いだろ? 魔法を見せてくれよ、可愛子ちゃん」 「んもーゾクゾクしちゃう! それじゃあセクシーダイナマイトな魔法を見せてやろうじゃないの! でも時間頂戴! じゃ後で!」 ブチッとガルシアが画面から消える。 ロッシがモーガンに向かって「お見事」と言ってニヤッと笑う。 そこにJJが電話を片手に小走りでやって来る。 「新たな事件発生です。 被害者は12才の男子とその母親です。 死因は失血死でほぼ確定。 CSIが調査中で警察は目撃者を探しています」 「母親?」とホッチナーが鋭い声を出す。 「妄想の進化か?」 リードがガバッと立ち上がる。 「違う! 侵入経路が分かったかも!」 「リード、座れ。 それで?」 ホッチナーにそう言われ、リードがシートにすとんと座ると早口で話し出す。 「まだ検視結果を見てみないと断定は出来ないけど、きっと母親は30ヶ所も刺されていない。 母親は巻き添えです。 今迄の被害者達は玄関の鍵を自分で開けて家に入ろうとした時、犯人が一緒に家に入ったんだ! 『玄関の鍵を一人で開けて家に入る子供』がターゲットなんじゃないかな。 今回は母親が居たので巻き添えになった。 つまり計画を立てていない。 きっと使命感に駆られて近所を車で流し、『玄関の鍵を一人で開けて家に入る子供』を見れば犯人は犯行を実行に移すんです」 ホッチナーが立ち上がる。 「よし。 警察から狙われている子供の特徴を住民に大至急伝えてもらおう。 検視結果が出たらプロファイルの発表だ」 BAUがリッチモンド警察に到着すると同時に 検視報告書が届いた。 母親は心臓を一突きされていただけで、子供は30ヶ所以上刺されていたのだ。 死因は失血死だ。 BAUは直ぐ様プロファイルを発表した。

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