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第24話
それから1時間。
ホッチナーの運転するSUVの中は、リードの好きなベートーヴェンの曲が流れているだけで、会話は無い。
ホッチナーの運転は慎重かつ警戒感丸出しで、リードはホッチナーに世間話をすることすら憚られて、カップホルダーに用意されてあったコーヒーを飲む以外は、頭の中でトラヴィス・アルマンから託された数字の羅列と地図の解析をしていた。
途中でホッチナーに休憩するかと訊かれたが、リードは断った。
するとホッチナーはリードに絶対車から降りるなと厳しく言って、お洒落なカフェに寄り、新しいコーヒーを買って来てくれた。
それからも車内はベートーヴェンの曲だけが流れていた。
そしてガルシアのアパートを出発してから二時間半後、別荘に到着した。
別荘は見るからに豪華な作りで、ホッチナーがゲートの横の防犯システムに番号を入力すると、ゲートは自動で開いた。
そうして壮麗な玄関前に車を停めると、ホッチナーが「着いたぞ」と言って車を下りる。
リードもそれに続いた。
ホッチナーはさっさとトランクからホッチナーとリードの荷物を取り出して両方持つと、リモコンキーで車を施錠する。
スタスタと玄関に向かうホッチナーにリードが小走りで付いて行く。
「ホッチ!
僕、自分の荷物持つよ!」
「もう玄関だ」
ホッチナーは素っ気なくそう言うと、上着の内ポケットから革のキーホルダーを取り出し、一つしか着いていない鍵で玄関を開けると中に入って行く。
リードも続いて玄関から別荘の中に入る。
ホッチナーは磨き込まれた大理石の床に荷物を置くと、玄関横の警備システムをオンにした。
その途端、リードはホッチナーに抱き寄せられ、唇が重なる。
リードのほんの少し開いていた唇から、ホッチナーの舌が難なく侵入する。
ホッチナーは荒々しくリードの歯列をなぞり、舌を絡める。
リードが驚いて顔を背けようとしても、ホッチナーはリードの小さな顔を大きな両手でガッチリと掴み逃げることを許さない。
絡まる舌が痛い程しゃぶられる。
まるで燃える様な口付けに、リードは段々と抵抗することすら出来なくなる。
舌がじんじんと痺れて、口の端からはどちらの物とも知れない唾液が零れ、酸素の回らない頭でリードが膝から崩れ落ちそうになるのを、ホッチナーが片手でアッサリと支える。
ホッチナーは空いた片手でリードの頭を固定すると、リードの唇から零れた唾液をゆっくりと舐め取る。
そしてリードのか細く長い首に吸い付く。
舐められながら吸われてを繰り返され、リードは喘ぐことも出来ず小さく震えているだけだ。
だがホッチナーの唇がリードの鎖骨に辿り着き、噛み付くように吸われると、リードは「アアッ…!」と言って仰け反った。
それでもホッチナーは行為を続ける。
リードの鎖骨が赤く染まると、ホッチナーは荒い息を吐きながら、リードのセーターの中に下から手を差し入れ、リードの胸の突起を指先で摘んだ。
リードが「…ヒッ…」と小さく悲鳴を上げると、今度はセーターを捲られ、片方の突起をホッチナーが吸う。
リードは初めての刺激に、ただ身体を震わせることしか出来ない。
だが交互に二つの突起を指先でキュッと捻られ、コリコリと歯を立てられながら吸われ続けていると、「あ…ッ…!あぁっ…」と声を上げ出した。
そして胸の突起がぽってりと赤く腫れると、ホッチナーがリードをそっと床の上に横たえた。
リードがホッチナーにキスをされた時から、ぎゅっと瞑っていた瞳を開ける。
リードの涙が浮かぶ潤んだ瞳の先には、欲情を隠そうともしないホッチナーの顔があった。
リードは何を言っていいか分からず、「ホッチ…ここ玄関だよ…?」と呟いた。
ホッチナーがじっとリードを見つめて言う。
「お前が悪い」
「…え?」
「そんな格好をして俺を誘惑するな。
俺はお前に煽られたら止まらない。
分かってるだろ?」
「で、でも…僕じゃなくて…ガルシアが…そ、それにホッチ…ゆっくり進めたいって…」
「こんな鎖骨や臍を丸出しにする服をお前が着た。
それが事実だ。
このニ時間半俺がどれだけ我慢したと思う?」
「…ぼ、僕のせい…?」
「そうだ」
ホッチナーはそう断言すると、手早くリードのベルトを外しジーンズを脱がした。
靴が後ろに放り投げられてポンと軽い音がする。
そしてホッチナーはあっという間にリードの下着も脱がした。
ホッチナーがリードの緩く勃ち上がった薄いピンク色の雄に触れる。
リードの身体がビクッと震える。
「…ホ、ホッチ…やめ…」
「濡れてる。
気持ち良かったのか?」
リードの顔がカーッと赤くなる。
ホッチナーの喉がゴクッと鳴る。
ホッチナーが掠れる声で言う。
「お前の言い分は分かるし俺は勝手な男だと思うだろう。
お前は男が人を本気で好きになった時の心の激しさを知らない。
だが今はまだ知らなくて良い。
ただ俺をほんの少しでも好きなら、そのまま感じてろ」
ホッチナーはそう言い切るとリードの足を開いて、太腿の裏に両手を付くと体重を掛けた。
リードの下半身は冷たい大理石に押し付けられ、動けなくなる。
そして次の瞬間リードの雄はホッチナーの口内に含まれた。
ホッチナーの口の中でねっとりと舐めてはキツく吸われ、リードの雄は直ぐに限界を迎えた。
「ああんっ…!ホッチ!出ちゃう…!出ちゃ…アアッ…!」
そうしてホッチナーに軽く根元も扱かれると、リードはホッチナーの口内に白濁を放った。
「リード、まだ怒ってるのか?
それともまだ冷えてるのか?」
ホッチナーに背を向けてソファに座り、ガルシアが持たせてくれたハーブティーを飲むリードは無言だ。
ホッチナーがリードを後ろからやさしく抱きしめる。
ホッチナーがドライヤーで乾かしてやったふわふわのリードの髪に、ホッチナーがキスを落とす。
「風呂では何もしなかっただろ?」
「……当たり前だよ!
ホッチがげげげ玄関でしたこと、僕、忘れないからね!」
「気持ち良かったか?」
「いちいち訊くの止めてよ!」
リードの頬と耳がパッと赤くなる。
リードがヤケクソ気味にハーブティーを飲み干す。
ホッチナーがリードの耳朶にキスをする。
「気持ち良かったんだな。
忘れないなんて光栄だ」
「ホッチ!
そのおかしな方向のポジティブ思考直した方が良いと思うよ!?」
「仕方無いだろ。
お前との週末旅行で浮かれてるんだから」
リードがホッチナーの腕の中でクルリと振り返ると、マグカップをローテーブルに置く。
そして上目遣いでホッチナーを睨む。
ホッチナーが目を細めて「そんなかわいい顔するな」と言って、今度はリードの額にキスをする。
「…じゃ、じゃあホッチはどうしたの?」
「何を?」
「ホ、ホッチだって…玄関で、その…かかか感じてたんじゃ…」
「ああ、それか」
ホッチナーがまるでお天気の話でもするように何の気無しに答える。
「お前がイった後、お前のペニスと一緒に扱いて出したから心配するな」
「心配なんかしてない…っていうかそんなことしてたの!?」
「天才の癖に推測出来なかったのか?」
瞳を見開くリードに、ホッチナーが楽しそうにフッと笑うと、またもリードの額にキスをする。
リードがプーッと膨れる。
ホッチナーが人差し指でリードの頬をそっと突く。
「悪かった。
じゃあお前の機嫌が直る話をしよう。
実はこの別荘の持ち主はお前と同じ読書家で、しかもコレクターだ。
地下に図書館がある。
年代物の初版本も揃っている。
良かったら気に入った本を何冊か選んで持って来い。
図書館から持ち出せない本はケースに入っているから、それ以外の本なら自由に読んで良いそうだ」
「本当!?」
「ああ。
じっくり選んで来い。
俺は少し片付けなくてはならない仕事がある」
ホッチナーがリードを抱いていた腕を解くと、リードが立ち上がる。
「じゃあ見てくる!」
そう言ってリードが足早にリビングを出て行く。
リードの姿が消えると、ホッチナーはバッグから衛星電話を取り出して電話を掛けた。
直ぐにガルシアが出る。
『ホッチ!
無事に別荘に着いたんですね!
リードのストーカーは!?』
「大丈夫だ。
誰にも尾行されていない。
昨夜リードのスマホにニ件あった電話の発信元は判明したか?」
『それがやっぱり使い捨て携帯でした。
しかもニ件とも携帯を変えています。
基地局は分かりました。
前回と同じ!
DC近辺です。
でもホッチの言う通り、犯人はあたしの家にリードが泊まって焦っているようです。
ニ件目には留守電にメッセージを残しています』
「俺も聞いた。
『例の件は進んでいますか?お母様の件でもお話があります。至急連絡を下さい。』だったな。
何か分かったのか?」
『あれは犯人の声じゃ無いと思います。
というか一人の人間の声でも無かった!
良く似た声を単語毎に繋げてフィルターを掛けているんです!』
「それは難しい技術なのか?」
『完璧にやろうと思えばそれなりに。
でもこの犯人のやり方は稚拙です。
中高生が遊びで動画に使うレベル。
パソコンやスマホが使えれば誰でも出来ます。
リードのスマホにインストールした闇アプリといい、この犯人は余りコンピュータ関係に詳しくないですね。
ただ複数の人間の声をどうやって集めたのかが疑問ですけど』
「それこそネットで拾った声じゃないのか?」
『それが違うんです!
全ての単語に雑音が混じってるんです。
空気の振動や椅子が軋んだ音やペンの音など。
多分ICレコーダーで録音した物だと思われます!』
「そうだな。
だが単語と言えども強制されて話している様子は無い。
犯人は人の話を録音しても相手に警戒されない人物だ。
職業は絞られる。
それでリードの母親に何か変化はあったのか?」
『主治医の先生に、リードの同僚ですがお母様のお見舞いに行きたいと直接問い合わせたんですけど、先生とは繋がりませんでした。
単に土曜日だからという訳では無くて、この土日は大切な打ち合わせがあるから月曜日にご連絡下さいと秘書に言われました。
先生と繫がらないので、当然ながらリードのお母さんとも話せませんでした』
「だが犯人は『お母様』という単語をわざわざ出した。
焦ってリードが絶対に連絡をするように仕向けたんだ。
リードの母親が施設に入っている事を知る人間は少ない。
犯人がどうやって知ったのかも犯人を知る手掛かりになる。
このニ件の着信とメッセージはリードのスマホから消えているから、リードからの連絡は無い。
そうなれば犯人の焦りは募って、今回以上のミスを犯す可能性が高い。
休みに済まないが今迄通りリードのスマホを監視しててくれ」
『了解です!
あと休日勤務の埋め合わせは、月曜日にあたしの質問にYESかNOで答えてくれるだけで良いですよ〜』
「意味が分からないが、それで君が満足するのなら良いだろう。
答えるよ。
それから昨夜はリードを眠らせてくれてありがとう」
『いえいえ!
リードがいくら信頼してるからって、他人を家に入れてまで話すなら、何かリードの興味を引くような資料を見せられてたんじゃないかと思って!
それなのにリードは資料らしき物を全然見ないから、きっと資料を記憶して、頭の中で秘密裏に分析とか解析をしてるんだろうと思ったんです。
昨日のリードは書類仕事しか無かったし、リードなら書類仕事と同時進行出来るだろうし。
だからあたしがボランティア活動している被害者家族の会で不眠に悩んでる人に提供しているハーブティーを、濃い目に煮出してサングリアに混ぜたんです。
脳をリラックスさせれば一気に疲れが出るだろうと思って。
効き目バッチリ〜!』
「そうか。
俺には飲ませようとするなよ。
じゃあまた」
『分かってますって!
では!』
そう二人が言って同時に衛星電話を切ろうとした、その時。
ローテーブルに置きっぱなしにされていたリードのスマホが鳴った。
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