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第29話

ホッチナーのアパートに着くと、ホッチナーはリードを起こし、片腕でリードを支え、片手で荷物を持ち、自分の部屋へと向かった。 そうして部屋に入ると、リードをソファに座らせ、漏電の為リードのアパートには当分帰れない事を説明し、それまで一緒に住もうと提案した。 リードの身体が動かないことを理由にして、リードが日常生活に必要な物をホッチナーがリードのアパートに取りに行くことも。 リードは何の疑問も持って無い様で、直ぐに承諾した。 それからホッチナーは自分が荷解きをしている間に、リードに必要な物のリストを書かせた。 リードのリストは驚く程少なかった。 仕事用の着替えが3セットと靴が一足だけだ。 リードは、普段着はガルシアが別荘行きの為にプレゼントしてくれた物を着るし、スキンケアや洗面用具はホッチナーが用意してくれた物を使うと屈託なく言った。 だがホッチナーは本が一冊も無いことが気になった。 それを訊くとリードは恥ずかしそうに、「…ホッチの持ってる本を読みたいから…」と答えた。 ホッチナーは思わずリードを強く抱きしめてしまった。 壊れる程、強く。 そうしてホッチナーは1時間も掛からずリードのアパートからリストの洋服と靴を取りに行って、ついでに夕食も買って帰った。 リードはホッチナーに言われたり通り、鍵の掛かったホッチナーのアパートの部屋に籠もっていた。 正確に言えば、ソファでぐっすりと眠っていた。 ホッチナーの頭にガルシアの言葉が蘇る。 『リード、いつもの三倍増しに子供みたいな寝顔してる。 安心してますね。 幸せそう!』 ホッチナーは何故だか無性に泣きたくなった。 悲惨な事件を何百と見てきた。 そしてチームを率いて解決してきた。 理不尽とも思える決定もしてきた。 時には政府高官とも渡り合ってきた。 仕事の鬼と呼ばれ、怒らせたら一番ヤバイ奴だと言われているのも知っているし、それは事実だ。 そんな自分が、自宅でリードが安心して幸せそうに寝ている、ただそれだけで泣けそうだ。 リードが薄っすら瞳を開ける。 「…ホッチ…?」 ホッチナーが奥歯を噛み締めて、「ただいま」と答える。 リードがエヘヘと笑って起き上がる。 「今夜は一緒にホラー映画観ようよ! どんなホラー映画観ようかな〜って考えてたら眠っちゃった!」 「…いいな、それ」 「ホント!? ホッチとホラー映画観れるなんて夢みたい〜!」 リードが嬉しそうに言って立ち上がり、よろける。 ホッチナーがさっとリードを抱き止める。 「急に立つな。 危ないだろ」 「…うん。 ごめんね。 でも楽しくなっちゃって!」 「俺とホラー映画を観るのがか?」 「そうだよ!」 リードの無邪気な声。 ホッチナーはリードを片手でキツく抱きしめると、空いた片手で滲んだ瞳を拭った。 夕食を終えると、ホラー映画を観たら直ぐに眠れるようにと、シャワーを済ませて置くことにした。 ホッチナーは別々にざっとシャワーを浴びようと言ったが、リードはバブルバスに二人で入りたいと譲らない。 結局、ホッチナーが折れてバブルバスに二人で入る。 ホッチナーに後ろから抱えられ、バスタブに浮かぶモコモコの泡にリードは満足気だ。 リードの身体中のキスマークはまだ消えてなくて、ホッチナーに罪悪感を呼び起こさせる。 だが当人のリードは、「ほっちぃ…キスして…」と甘ったるい声で強請って来る始末だ。 ホッチナーが「駄目だ」と間髪入れず即答する。 リードがプーッと膨れる。 「どうして?」 ホッチナーが深いため息をつく。 「あのな…昨夜のことを忘れたのか!? 今だって危ういんだぞ! キスなんかしたら俺は止まらないし、お前は明日仕事を休むことになる!」 「んー…じゃあさあ、キスしてくれたら少し触っても良いよ」 「…!」 二の句が継げないホッチナーに、リードが振り返る。 「だって…初体験の後…こんな風にお風呂に入れてくれた時のこと、覚えて無いんだもん。 キスもいっぱいしてくれたんでしょ? だから再現したい。 ……ダメ?」 リードの上目遣い。 拗ねた口調。 湯に浸ったせいで濃いピンク色になった唇。 ホッチナーは自分の負けを知る。 「……分かった。 でも少しなら触っても良いんだな?」 「うん!」 ホッチナーがリードの細い顎を掴む。 リードが長い睫毛を伏せる。 ホッチナーがリードの唇に唇を重ねた。 ホッチナーは唇をチュッチュッと重ねるだけで、舌を入れるのを何とか我慢していた。 リードもそれだけで嬉しそうで、瞳を閉じたままホッチナーの首に両腕を回し、キスの合間に「ほっちぃ…もっとぉ…」と甘ったるい声で強請ってくる。 そしてホッチナーに限界がやって来る。 ホッチナーはどうにか鎮まってくれと願ったが、下半身に集まった熱が雄を張り詰めさせる。 ホッチナーが唇を離し、「少しなら触って良いんだよな?」と訊く。 リードが瞳を開ける。 瞳はとろんと蕩けていた。 リードが「…うん」と小さく答える。 ホッチナーの手が湯の中でリードの雄を掴む。 リードの雄は緩く勃ち上がり先は滑っていた。 ホッチナーが「しっかり捕まってろ」と言って、リードの雄と自分の雄を二本同時に扱き出す。 ホッチナーの硬く猛る雄をゴリゴリと擦り付けられ、リードは再び瞳を閉じると、ホッチナーの首に回した腕に力を込め、「あぁ…ん…ごりごり…やだあ…」と喘ぎ始める。 「嫌なら止めようか?」 「…ほっちぃ…いじわる…あん…ッ」 「リード、キスするんだろ?」 「…ん…んんッ…」 リードが自分から唇を重ねてくる。 ホッチナーがすかさず舌を捩じ込む。 難なくリードの舌を捕らえ、痛い程しゃぶる。 リードのホッチナーの首に回した腕に力が込もる。 「…ふっ…んっ…んんーッ…!」 リードが呆気なく爆ぜる。 ホッチナーはそれでも焦らず、イったリードの雄を離す事無くじっくりと手を動かし、達した。 リードは自分がイった後も自身を離してくれなかったホッチナーにプリプリと怒っていたが、昼間のようにホッチナーに髪を洗って貰い、乾かして貰って、パジャマに着替え、B級ホラー映画が始まると、そんなことはどうでも良くなった。 ポップコーンをつまみながら赤ワインを飲んで、くだらないホラー映画を二人は心から楽しんだ。 ホラー映画が終わると、リードはホッチナーに腕枕をされて眠った。 リードはすやすやと眠りながらホッチナーに抱きついて来る。 ホッチナーはふとリードが出張先で『ホッチの身体はあったかい』と言った言葉を思い出した。 そして確信した。 リードは紛れも無く唯一無二の天才だが、心は人肌の温もりで安らぐ程、幼いのだと。 だがそれは幼稚では無く無垢なのだと。 それを自分は初めて出逢った時から知っていた。 そうしてリードが少しずつ成長していくのが、どんなに嬉しかったのかも。  成長しながらも、無垢であり続けるリードがどんなにかわいかったのかも。 ホッチナーはなぜ自分が泣きたくなったのかが分かった。 ホッチナーは瞼を閉じた。 その夜、二人はただ、抱き合って眠った。 翌朝、出勤時間の早いホッチナーに合せて一緒に出勤することになったリードは、ほんの少し眠そうだったが、それよりも楽しそうだった。 筋肉痛も大分良くなったらしく、二人で出勤する事にはしゃいでいて、車の中ではずっと昨夜観たホラー映画の解説をしていた。 そうして二人でBAUのオフィスに入る。 まだ課員もまばらにしか出勤していない。 中二階の自分のオフィスに向かうホッチナーにリードが小さく手を振る。 ホッチナーが頷いて、階段を昇る。 ホッチナーはオフィスに入ると、まず照明のスイッチを入れ、鞄をデスクに置いた。 それからブラインドの隙間からリードを見た。 リードはデスクに着き、ファイルを捲っている。 ホッチナーもデスクに向かい、衛星電話を鞄から出すとデスクに置き、パソコンを立ち上げ、山積みのファイルから一冊を抜き取り書類を書き始める。 ホッチナーが自分のオフィスに入ってから五分後。 ドアがノックされた。 ホッチナーは書類から目を離さず「どうぞ」と言った。 「少しよろしいでしょうか?」とアンダーソンの声がする。 「何だ?」と訊くホッチナーは未だ書類から目を離さず、記入を続けている。 アンダーソンが遠慮がちに答える。 「リード捜査官からホッチナー捜査官に渡してくれと頼まれまして」 ホッチナーが顔を上げる。 アンダーソンが書類用の箱を抱えている。 ホッチナーが立ち上がり、「ここへ置け」と言うと、アンダーソンは「はい」と答え、ホッチナーに指定されたデスクの上に箱を置くとオフィスを出て行く。 ホッチナーがそっと蓋を開ける。 ホッチナーは我が目を疑った。 箱の中には、リードのFBIのバッチと拳銃がホルスターごと入っていたからだ。 ホッチナーが反射的にブラインドの隙間からリードのデスクを確認する。 デスクには誰もいない。 ホッチナーが「アンダーソン!」と怒鳴る。 アンダーソンが慌てて戻って来る。 「何でしょうか?」 「リードは何処だ!?」 ホッチナーの迫力にアンダーソンがビクッと肩を竦めながら答える。 「え…あの…ホッチナー捜査官の命令で調査に行くと言って、オフィスを出て行きましたけど…」 ホッチナーが鋭く言う。 「リードとの会話と行動を正確に話せ」 アンダーソンが即口を開く。 「リード捜査官は、ホッチナー捜査官に直ぐに渡してくれと言ってその箱を僕に渡し、ホッチナー捜査官の命令で調査に行くと言って、オフィスを出てエレベーターに乗りました。 以上です」 「お前はリードを追え。 この建物から出ていないか確認しろ。 リードを見付けたら、俺が呼び戻していると言ってどんな手を使っても良いから連れ戻せ!」 「はい!」 アンダーソンが駆け出してホッチナーのオフィスを出て行く。 ホッチナーは素早く衛星電話を掴むと、短縮ダイヤルを押した。

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