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第30話

ガルシアの衛星電話が鳴る。 ガルシアはバッグの一番上に置いておいた衛星電話を取り出すと電話に出た。 「はい、ボス!」 『ガルシア、今何処だ!?』 珍しく焦ったホッチナーの声に、ガルシアが慌てて答える。 「エレベーターの中です…って今6階に着きました!」 『よし、君のオフィスで落ち合おう』 「は、はいっ!」 ガルシアが慌ててオフィスに向かうと、ドアの前に書類用の箱を持ったホッチナーが立っていた。 ガルシアが無言でキーパッドを押し暗証番号を入力する。 カチッとした音と同時にホッチナーがドアノブを掴み、素早くガルシアのオフィスに入る。 ガルシアもホッチナーに続いてオフィスに入ると、ドアを閉め、鍵も閉めた。 ホッチナーは書類用の箱をデスクの空きスペースに置くとガルシアを見た。 ホッチナーの鋭い眼光に、ガルシアが思わず震える声で言う。 「何なんですか…?」 「リードが消えた」 「はあ!?」 「これを見てくれ」 ホッチナーが蓋を開けた箱を指差す。 ガルシアが恐る恐る箱の中を覗き込む。 そしてガルシアは目を見開くと「何これ!?」と叫んだ。 ホッチナーが静かに話し出す。 「君にも話した通り、俺は今朝リードと一緒に出勤した。 そして俺は自分のオフィスから、リードがデスクに着いたのを確認してから仕事を始めた。 そこにアンダーソンがこの箱を持ってやって来た。 箱の中身を見て直ぐにリードを確認したが、姿が無かった。 アンダーソンによれば、この箱を俺に直ぐに渡してくれと言ってアンダーソンに渡し、自分は俺の命令で調査に行くと言って、オフィスを出てエレベーターに乗って行った。 その間5分だ。 どんな小さな事でも良い。 何か心当たりは無いか?」 ガルシアが素早くデスクに着くと、パソコンを立ち上げる。 華麗にキーボードを叩きながら、ガルシアがパソコン画面に向って言う。 「ホッチ、まず怒らないって約束して下さい」 「何か知ってるのか?」 「約束!」 「分かった。 君が何をしていようが怒らない」 「あのですね〜」 ガルシアが画面を睨み付けながら、キーボードを弾き続ける。 「実はリードの裸の画像を送って着たストーカーのクソ野郎の存在をホッチに聞かされてから、リードのスマホだけじゃ無く、BAUのリードのデスクの固定電話も記録してたんです」 「それで?」 「リードの事情を聞かされた金曜日には仕事関係の電話だけ。 土日は何も無し…そして…出た!」 「何だ?」 「今朝の8時24分20秒に着信がありました! 時間は約30秒! 内容は…今再生します! 『宇宙人をあと何人確かめたいか知りたいのなら、今すぐBAUを辞めてダレス国際空港に行け』 以上です!」 ホッチナーが腕を組んで頷く。 「…そうか…そういう事か。 だからリードはスマホだけは持って行ったんだな」 「どういう事ですか!? それにこのメッセージ、意味不明なんですけど!?」 ホッチナーの瞳がギラリと光る。 「いいか、これから3時間以内に一度だけリードのスマホの電源が入るだろう。 君はその場所を特定してくれ。 それからダレス国際空港の全ての監視カメラに、リードが映ったら分かるようにしておいてくれ。 どんな方法を使っても構わない。 それとこの電話の発信元は?」 「…えーと…DCの議事堂裏の公衆電話です!」 「そうか。 じゃあ全員を会議室に召集しろ。 君も来い」 「え!? あたしも!? あ、はい!」 ホッチナーはそう言うとあたふたしているガルシアを残し、足早にオフィスを出て行った。 会議室にはBAUのメンバー全員とガルシアが円卓に着いている。 ホッチナーは一人モニター画面を背にして立っていた。 ホッチナーが書類用の箱からリードのFBIのバッチと拳銃とホルスターを取り出し、そっとテーブルに置く。 ガルシア以外の皆の目が釘付けになる。 最初に口を開いたのはモーガンだ。 「何だよ、それ。 まさかリードが辞めたって言うんじゃないだろうな!?」 ホッチナーが「違う」と即答する。 そして「リードはストーカーに脅され、出勤して僅か5分でこれを残し消えた」と続けた。 「ストーカー!?」と皆が声を上げる。 「そうだ。 実は金曜の早朝にガルシアのスマホに…」 ホッチナーはリードとの恋愛以外の全ての事情を説明した。 しんと静まり返る会議室。 JJが「私達にも知らせて欲しかったな…。ホッチのやり方が最善だったとは思いますけど」とポツリと言う。 するとエミリーが「そう。ホッチの行動は最善だった。でも最初のプロファイルが間違ってます。それに気付くだけでも、私達に話してくれる価値はあったと思います」とホッチナーの目を見て言い切る。 ホッチナーもエミリーの目を見て「どういう事だ?」と訊く。 「簡単な事ですよ。 ホッチは、ストーカーが自分の力の証明の為に、リードのスマホでリードの裸の画像を撮り、ガルシアに送信して、ガルシアからホッチに報告させたのはBAUへの挑戦だと言いましたけど、違うと思うんです。 だってそれならホッチに直接画像を送信すれば良いじゃないですか。 その方がダメージが大きいし、結局ガルシアがリードのスマホを調べる事に変わりは無いんですから」 モーガンが頷く。 「そうだよな。 ホッチに直接メールしなかったのはストーカーの特徴と矛盾する。 ストーカーはストーキングする相手しか目に入らない。 それ以外に関心を持つのは邪魔者だ。 リードに、部屋に招き入れらる程信頼されていたのなら、邪魔者なんていないも同然だし、恋愛妄想がもっと膨らんで、リードしか目に入らなくなるだろう。 でも犯人はリードに嫌われるリスクを犯してまでリードを眠らせ裸の写真を撮り、何故かガルシアに送った。 ガルシアは邪魔者じゃ無いよな? 犯人がもうリードに信頼されてるって事は、ガルシアがリードとストーカーの邪魔をしてないって事なんだから。 リードの裸の画像を撮る理由にもならねえよ。 ストーカーは確かに存在する。 だがこれは個人的な嫌がらせ、報復だ。 ガルシアとホッチに対する」 「あたし!? この愛と平和で出来てるあたしに報復!? 何でよ!?」 アワアワしているガルシアにモーガンがやさしく微笑む。 「落ち着けよ、ベイビー。 お前は悪く無い。 ただストーカーには邪魔者だと思われている。 まずガルシアの行動を事件ごとに振り返ってみよう。 ストーカーは絶対に事件の関係者だ。 じゃなきゃガルシアに拘る理由がねぇ。 ガルシアはここ8ヶ月、現場には出ていないんだから、ガルシアがFBIのオフィスでした事がストーカーの怒りを買ったと思うのが当然だろ? じゃあガルシアはここで何をする? 仕事だ。 ガルシア無しじゃ事件は解決しない」 ホッチナーが「そうしよう。じゃあまず一番最近の事件から」と言うと、JJがスクリーンにテリー・パーカーの逮捕時の写真を映し出す。 「リッチモンドのスピード解決した事件だな」とロッシ。 ホッチナーが即答する。 「そうです。 そしてパーカーは子供が宇宙人だと確かめる為に殺人を犯していた」 エミリーが目を見開く。 「宇宙人! それって今朝リードに掛かって来た電話のメッセージにも宇宙人ってありましたよね? ガルシア、再生してくれる?」 「うん! はいな!」 ガルシアがラップトップのキーボードを叩く。 すると男の声が会議室に流れ出す。 『宇宙人をあと何人確かめたいか知りたいのなら、今すぐBAUを辞めてダレス国際空港に行け』 男の声が終わった途端、モーガンが声を上げた。

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