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第18話
西園寺の御仁のパーティから数日後。紫桜は院瀬見家主催のパーティに参加していた。周りには日本政財界の重鎮やお偉い様方。新年会などの年に数回あるパーティで顔を合わせるメンバーの為、今更新鮮さなどない。紫桜は最近よく話す院瀬見颯士と一緒にいた。
「なんでパーティって開かれるんですかね」
冷めた表情で眼下の有象無象を見つめる颯士。去年成人したばかりの大学生には見えない。
「大人の世界には建前が必要なんだよ」
そんな颯士と苦笑しながら談笑する紫桜。院瀬見家と七々扇家の御曹司ということもあり、彼らはほとんどのパーティにおいて一段上がった場所にいる事が多かった。そんな場所から紫桜と颯士、夏輝、紫桜の弟の飛結 の4人は優雅にお酒を嗜んでいた。
「紫桜さん、前お話した新規企画なんですけど」
「規模はどうするんだ?」
「とりあえずアジア限定で展開しようかと」
「あの案件はアジアより欧米向きだと思うが」
颯士と紫桜は颯士が提案した新規企画を実行可能まで持っているけるよう、話し合いを始めていた。
「何が楽しいんだか…」
「夏輝ちゃんは興味ない?」
「興味ないっていうか、私は経営陣より開発部の方がいいなぁって」
大学は理工学系に進学した夏輝は、院瀬見グループの開発部への所属を考えている。よって、経営陣である兄の話はある程度は聞くものの、詳しくなると面倒とばかりに話しを中断させるのだ。
「前から何か作るのが好きだからね」
「そそ。だから会社は颯兄 に任せて、私はモノづくりに没頭しようかなってね」
「面白いもの作りそうだ」
夏輝と飛結は1歳違いという事もあり、とても仲が良い。颯士と紫桜が良き先輩後輩であれば、夏輝と飛結は良きライバルであり相談相手であった。
それからパーティ終了まで、他の参加者からの挨拶を受けながら4人の会話は続いた。途中、院瀬見当主や藤堂副社長夫妻も参加していたが、結局最後まで参加していたのは4人だった。
「颯士、時間あるならうちに来るか」
お酒を片手に紫桜がふと颯士に問う。パーティもお開きになりつつある時間であったので、颯士は食いつくように返事をした。
「じゃあ私帰るねー」
「兄貴、俺も帰るわ」
そんな兄たちをさておき、夏輝と飛結はさっさと帰っていった。
場所を移動して紫桜のマンションにて。パーティ会場から移動してきた紫桜と颯士は、二人で二次会がてら紫桜オススメの白ワインを空けていた。
「そういや、紫桜さんって結婚とかどうするんですか?」
いきなりぶっこんだ質問を投げかける颯士。紫桜は思案顔になり真剣に考えだす。
本人的には特に急がなければという事もない。と思っている。弟はまだ現役で大学入学が決まったばかりの歳であり、自分に何かあれば弟に後を継いでもらえればと思っている。それに加え、弟は既に婚約済みだ。Domの弟とSubの弟嫁(男)の仲はとてもよく、大学卒業後すぐに結婚を控えている。高校入学のその日に出会い、同級生として親友になった二人は半年という短期間でゴールインを果たしたらしい。
…なんというか、意外と飛結は強引らしい。
「俺は特に結婚は考えていないな」
「パートナーとかはどうするんですか?」
「…あー、まぁ」
結婚は否定したがパートナーに関しては答えを濁らせる尊敬する先輩に、颯士は瞳をキラキラさせて問い詰めた。
「どんな人ですか!」
「…いや、会社の社員だ」
「もっと具体的に!!」
「…そうだな。いつでも俺の傍にいるな」
「護衛の方とかですか?」
「いや、秘書だ」
「……えっと」
紫桜がパートナーにしたい人物に心当たりが有りまくり過ぎる颯士の脳は、一瞬フリーズする。
「…ちなみに、その秘書とは前の秘書ですか?」
「いや、今のだが」
「…秘書さんって何人いるんですか?」
「全員所属が違うが、3人だな」
「…ちなみにパートナーにと考えている秘書はどこの所属ですか?」
「NIIG東京本社だ」
「……」
颯士の中で、ただ心当たりのあった人物から確実にその人だ。と断言した。
別に颯士が紫桜の秘書の事を知らないわけではない。東京本社とヒューストン支社、ドイツのデュッセルドルフ支社にそれぞれ1人ずつ秘書がいるのを知っていた。デュッセルドルフ支社所属の秘書に会ったことはないが、残り二人とは会った事がある。というか、東京本社の専属秘書は自分の実の兄だ。
思考停止する颯士。もはや思考を手放していると言っても過言ではなかった。
「確か前に紹介したか。神代というんだが、パートナーにするなら彼が良いと思っている」
「…なるほど」
紫桜の瞳は確実に捕まえて見せると物語っている。兄を哀れに思いながらも、敬愛する紫桜が幸せになれるなら仕方ない。と弟は一瞬にして兄を切り捨てた。
「ちなみになんですけど、その秘書の素性とかって」
「今第二秘書のティムに調べさせているところだ。軽く調べると一般家庭の長男という事になっているが、立ち居振る舞いや考え方がどう考えても上流階級出身なんだ」
そりゃそうだ。兄貴は院瀬見家でも圧倒的貴族感が一番出ていた人間だから。そう心の中で呆れの溜息を吐きながら紫桜の話を聞く。
「昔風に言うなら、王侯貴族が庶民の生活に溶け込もうとして失敗している感じだろな」
「……」
紫桜のセリフに颯士はもう呆れるしかない。高校生から一般家庭に入っているというのに、今だに兄は昔の雰囲気のままだという。確かにすぐに変えられるものではないが、だからと言ってそう簡単にバレるほど下手なのはどうなのだろうか。
いや。この前親父と二人で兄貴とラウンジで会った時に、登場からして貴族が来たような空気だった。常日頃からあれだと、隠している意味ないだろ。
思いっきり兄に毒づく弟。そんな颯士には気づかず、紫桜は如何にして葉琉を捕らえるか、策を巡らせていた。
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