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      第20話

 悪夢の8時間が過ぎていく。葉琉はただただ耐えるようにベッドに潜り込み、己を落ち着かせていた。まだ動ける。だからもう少し。葉琉はまだ自分が自分であることを確認し、安堵する。現在の時刻は21時40分。もう少しでバーへ行く時間。幸いにも、仕事用のスマホにもプライベートスマホにも社長やティムからの連絡は入っていない。社長が今日自分を訪ねてくる用は特にない。というか、今この状況を見られるわけにはいかない。確実に喰われる。  ふと意識が途切れ、次に目が覚めた時、暗かったはずの部屋は明るくなっていた。その変化に心臓が止まる程驚き、思わず飛び起きる。目の前には鬼の形相をした超絶美形の七々扇社長のどアップがあった。 「っ!!」 「どういうことだ、葉琉」  確実にキレている。なんなら結構の威力のGlareを俺に向けて放っている。 「ちょ、しゃちょ!!」 「まだ喘ぐな。それは後だ」  逃げようと身体を捩る葉琉を七々扇社長は鍛えられたその身体で押さえつける。  社長と擦れるところが熱を持つ。Glareが欲しくて堪らない。これがSubの本能なのだと思うと、全力で拒否りたくなる。 「離してください!」 「誰が離すか。薬でどうにかすると言ったのはお前だ、葉琉。なのになんだこの状況は」  Glareを徐々に強めながら問いただす…いや、尋問するの方が正しいだろう。  ベッドに縫い付けるように葉琉を押さえつける社長。葉琉は一切身動きが取れない。 「…っ。薬が切れていた事に気づかず」 「なるほどな。…なぁ葉琉、俺に喰われてみないか」  迫ってくる社長の顔。その瞳は欲情に溺れ、溶けている。 「それはっ!」 「こんな状況でどうするつもりだったんだ?俺が戻ってこなかったらどこへ行くつもりだった」 「っ!しゃちょう!!!」  強くなるGlare。それと同時に社長の怒りも大きくなっている気がする。  もはや葉琉は社長の一人称が、"私"から“俺”へ変わっていることも気づかないくらい余裕がなくなっていた。 「まさかPlayする事ができるバーへでも行くつもりだったのか?この俺がいるのに?」  完全にぶち切れな社長。葉琉はもう社長のGlareに酔いしれ、正常な判断が全くできなくなっている。Glareに当てられ、自分の中にある不安や焦燥を沈めてほしくて思わず社長に手を伸ばしてしまう。元々キレイな顔立ちで凛々し葉琉。Domの様な存在感を持つ彼が、今、自分の下に組み敷かれ、その大きな瞳を涙で濡らしている。そしてSub特有の儚い存在感を存分に表に出していた。 「…葉琉、いいか」 「っ!…しゃ、ちょ…」  command(コマンド)が欲しくてたまらない葉琉。紫桜はGlareを高め、葉琉をもっと欲情の波に呑まれるよう手助けする。  ワイシャツでベッドに潜り込んでいた葉琉。シャツをはだけさせるとSubらしく華奢な体つきにしなやかな筋肉がついていた。 「葉琉。綺麗だ…」  思わずうっとりとする紫桜。葉琉は完全に蕩け切って涙を流していた。紫桜は無意識に言葉にもGlareを少し乗せ、葉琉をもっと蕩けさせていく。 「…葉琉、Come(おいで)」 「っ!!!!」  ようやくもらえたcommandに歓喜する葉琉。紫桜は葉琉にうっとりとして次の行動に移す。 「葉琉、Strip(服を脱いで)」  いきなりの命令に少し戸惑いながらも、今は本能に身を任せている葉琉は素直にワイシャツやスラックス、下着を脱いでいく。 「ああ、Stop(待って)。下の下着はStay(そのままだ)」  下着姿のままの葉琉を組み敷く紫桜。履き心地に拘った黒いボクサーパンツ1枚の葉琉は、羞恥で顔が真っ赤に染まり、思わず紫桜から視線を逸らす。 「葉琉、Look(俺を見て)」 「っ!!」  commandで無理やり見るよう指示され、真っ赤な顔を紫桜に向ける。蕩け切り、瞳を涙一杯にして顔を真っ赤に染める葉琉。紫桜はそれだけでイケるほどのものを覚えた。 「ああ、可愛いよ」  ただただ葉琉を見つめるだけの紫桜。葉琉は次のcommandが欲しくてたまらない。それを察していながらも紫桜は葉琉を見つめるだけだった。 「っ、しゃちょう」 「ん?」 「……っ!」  甘い表情で目一杯葉琉を見つめる紫桜。その瞳は確実にドSのそれだった。 「どうされたい」 「っ、それ、は」 「葉琉、Speak(話して)」  無理やり葉琉から聞き出そうとする紫桜。  既になにも考えられない葉琉は、欲しくてたまらなかったcommandに素直に従う。 「もっと、ほ、しい」 「なにがだ?」 「っ!…こ、まんど」  途切れ途切れの葉琉の声。ちゃんと伝えてくれたその意思に、紫桜は天にも昇るような気持ちだった。パートナーにしたいと無意識に彼に惹かれていた。最近になりその事に気づき、何気なくアプローチをしていた。そんな相手から欲情に濡れた瞳で乞われた。そんな状況で自分を抑えられるほど、紫桜は自分ができていなかった。  Glareをさっきより強める。もう少しでSクラスに届くAクラスでもハイクラスのDomである紫桜。そんな紫桜のGlareを強力な物を真正面から受けて、葉琉が自分を保っていられるはずがなかったのだ。  ただでさえ不安定で、少なからず好感を抱いていた相手ならなおさら。 ――――――――――――――――― ※次は頑張ってえっろい系書きます。  

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