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      第40話

 3年前、オレの1つ年上でSクラスのSubであった従兄弟の院瀬見雛(イセミ ヒナ)と一緒に、大祖父様の誕生日プレゼントを買いに某百貨店に来ていた。全人類の0.01%以下であるSクラスのSubで大企業のお嬢様ということもあり、あらゆる敵から狙われていた。  雨が降りそうな曇天模様の休日。雛の希望で護衛は最低限になっていた。雛を溺愛していた大祖父様はオレに何があっても雛を守るようにと厳命した。もしもの事があれば、オレを勘当するという誓約書まで用意してな。あの頃は敵対的TOBが仕掛けられるのではないかと全員が殺伐としていた。それは颯士だってなんとなくわかっていただろう?  出きるだけ安全な家から雛を出したくない大祖父様たち院瀬見一族と、なんとしても出たい雛。自信過剰と取られるかも知れないが、あの頃はまだAクラスのSubだったオレは一族の中で唯一雛から頼られる存在だっただろ?だから雛はオレに「外に行きたい」と泣いていたんだ。 「...ねぇ、葉琉。私、一生この家から出られないのかな...?」  院瀬見家本邸のサロンで泣きそうな顔でオレの隣で呟く雛。とても儚く、満月の夜なのもあるのかまるでこのまま溶けて消えてしまいそうだった。 「...なんでそんなこと聞くの?」 「...だって、大祖父様は(コウ)くんの事を絶対に認めてくれない。それどころか、どこの誰かも分からないDomと結婚させようとしてくるのよ?」 「浩一郎さんは頼りになるのにな」  オレと出掛けるという口実で恋人である浩一郎と会っていた雛。それがバレてオレとの外出にも護衛が倍増されたんだろうが。  浩一郎は最初、パティシエとして院瀬見家にやってきた。元は六本木でパティスリーのオーナーをしており、葉琉の祖母がお気に入りだったお店だったため専属パティシエとしてヘッドハンティングしたのだ。甘いものが好きだった雛は、浩一郎が作るお菓子が大好きだった。そして浩一郎も、自分の作ったスイーツをとても美味しそうに頬張ってくれている雛を見ているのが幸せになっていった。そこから2人の恋は育っていったのだ。  しかし、その事実を知った大祖父様はそれは大激怒。このまま一般人のベータに愛孫を奪われるのではないかと危機感を持ち浩一郎を追い出した。雛はそれから葉琉にしか口を利かなくなり、葉琉は浩一郎を匿うために北海道の山奥に小さなパティスリーを渡した。 「あ、そうだ。ねぇ葉琉。来週大祖父様のお誕生日でしょ?一緒にプレゼントを買いに行ってほしいの」 「それはいいけど...。どこに行くんだ?」 「いつもの百貨店の予定。でも、護衛なしで私たちだけがいいなって...」 「...それは無理じゃないか?」  オレとしか出掛けない雛。大祖父様もオレの事を家族として大切にしてくれるが、何よりも大切な雛のためならオレも切り捨てるだろう。いつも雛と出掛けると10人は確実に護衛がついてくる。その護衛を無しにしてほしいといっているのだ。  さすがに無理じゃないか? 「無理なのは分かってる。でも、お願い」  暖かいアッサムティーをテーブルに置き、大きな窓の外にある満月を見つめていた瞳はオレをまっすぐ見てくる。 「...わかった。聞くだけ聞いてみる」  無理だと思っても、オレにとってもなんでも話せる大切な家族兼大親友のために少し頑張ってみようと思った。 「...本気で言っているのか」  オレの目の前にいる大祖父様は寝る前にいつも嗜む紅茶のカップをソーサーに置き、静かにオレをまっすぐ見てくる。鋭利で冷徹な視線に晒される。普段は優しい大祖父様だが、雛の事になるとこんな感じだ。 「はい。雛がどうしてもと」 「......」  沈黙が痛い。  しかし雛を第一に考える大祖父様だ。雛が”どうしても”と言っている以上、許可は出すだろう。まぁ、オレに対する誓約はなにかしらあるだろうが。 「...構わん。しかし、最低限の護衛は連れていけ。お前たちはこの院瀬見家の本流だ。2人だけで外出することは許さん」 「畏まりました」 「それともう一つ」 「......」  ほら、来た。 「雛に何かあれば、例えお前でも勘当する。いいな」 「...畏まりました」  まさか勘当を言い出すとは。  まぁ高校に入って叔父の養子になっているオレは、すでに院瀬見家の人間とは言えないから特に支障はない。  しかし、家族第一に考えるあの大祖父様が一応直系であるオレを勘当までするという。 「雛、許可もらってきた。明後日出掛けよう」 「本当に?!まさか、本当に許可をもらえるなんて!!」  翌朝、朝食後の紅茶を一緒に楽しんでいる時にオレは最低限の護衛のみでの外出許可が出たことを伝えた。一族の前では完璧な猫を被っている雛。”お淑やかな令嬢”としてオレ以外の前では通っているため、オレは思わずサロンの出入り口を確認してしまう。ちゃんと扉が閉じられている事を確認して思わずホッとしてしまった。 「今日明日は雛もオレもやることがあるから明後日にしたけど、よかったか?」 「もちろんよ!あぁ、楽しみすぎてどうにかなりそう」  ルンルンな雛。本当はとても活発で悪戯好きな少女であることを、一体どれだけの人が知っているのだろうか。 「じゃあまた明後日な、雛」 「あ、そっか。葉琉はこれから会社の定例会に出るんだっけ?頑張ってね」  白のシフォンワンピ姿の雛。晴天であるのも相まって、天界から気まぐれで紅茶を飲みに来た天使だった。 ーーーーーーーーーー ちょっと過去の回想入ります。 次で終わる予定。

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