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      第44話*R15

 葉琉を日本に置いて早一週間。紫桜はフランスはパリのとあるお洒落なカフェにいた。1ヶ月分の仕事は第四秘書の手腕により一週間で片付いてしまい、今日からは早速裏工作に動く。  Mr.カコールは相変わらず手厳しいな。  ブランチのブレンドコーヒーを楽しみながら怒濤の一週間を思い起こす。紫桜の第三秘書をしているMr.カコールは元々父の第二秘書をしていた切れ者で、元第一秘書である九条女史の教育係でもあった人物だ。紫桜の父・悠迅(ゆうじん)の秘書たち三人は、悠迅によって口説き落とされ彼の死後も彼のためにと第一秘書は悠迅の弟・ウォーレンのもとへ。第三秘書はウォーレンの長男である玄頼のもとへ。そして第二秘書は紫桜のもとへ来たのだった。  そんな第二秘書は紫桜を大学生の頃から知っていることもあり、今の主に対してかなり手厳しい。笑顔で死ぬほど仕事を持ってくる。  まぁ今回無理矢理1ヶ月の海外出張を組んだ大きな理由が私的なことであるのに少し機嫌が悪くなったMr.カコールだが、内容を聞き「やはりあの方のご子息ですね」と苦笑していたのは記憶に新しかったが。 〈あら、待ったかしら?〉  綺麗な発音のフランス語で紫桜の前に現れたのは、グッチの赤いコートを完全に着こなした美女である。シャネルのサングラスの奥から宝石のようなブルーの瞳が紫桜をからかうように見ていた。 〈遅刻するのは相変わらずか〉 〈結構頑張ったのよ?それから先方とのアポも取れたわ。5日後、4月24日の22時。ル ムーリスのペントハウスよ〉 〈ああ、悪いな〉  彼女、エミリア・マルティネスはコーヒーにミルクを少しと砂糖をひと欠片加えている。恐らくカップルだと思った店員がサービスで持ってきてくれたミルククッキーをつまみながら、胸を強調するように前に乗り出している。 〈...なにがしたい〉  大学の頃、散々向けられてきたその視線に鬱陶しさを感じながらも、使えるやつであることは間違いないので紫桜は珍しく耐えている。  そんな紫桜をみて自分は気に入られていると勘違いしているようだ。大学在学中は同じ学部であったこともあり、一度エミリアと寝たことがある紫桜。”寝た”というか、仰向けに寝ていた紫桜の前で脱ぎ、勃ってもいないソレを自分の口内で犯し、辛うじて元気になったソレを騎乗位していただけだが。結局一人満足した彼女は、紫桜をイカせようとして彼に止められていた。その後、エミリアが紫桜に近付く女豹を潰してくれたお陰で大学生活が少しばかりラクになったのは彼にとって思わぬ副産物だったようだが。  そんな過去を少し思い返していた紫桜は、葉琉のためにも今回限りでエミリアとの連絡も関係も何もかも絶とうと漠然と思っていた。 〈ねぇ、大切な彼はここにはいないんでしょ?溜まらないの?〉  向かいに座っていたはずなのに、自然と隣に座っている彼女。苦手な甘ったるい香水の香りに顔をしかめそうになりつつも得意の鉄仮面で無表情を貫く。  ーPrrrrr... Prrrrr...  救いの着信をすかさず取る。雪崩かかろうとしていたエミリアを然り気無く遠ざけ、スマホの画面を確認する。 〈秘書からの電話だ。このまま仕事に戻る。例のアポは助かった〉 〈ちょっと、あまりにも冷たくない?〉 〈仕事だから仕方ないだろう〉 〈私と貴方の仲なのよ?多少は仕事なんて後ででも大丈夫でしょ?〉  一体どんな仲だというんだ。ただの元同級生というだけだろう。 〈悪いな〉  悪態をつきそうになったが、頑張って心の声は押さえる。  そのまま立ち上がり、近くにいた店員に内ポケットから取り出した新しい100ユーロ紙幣を手渡す。コーヒー2つで8ユーロほどなのでお釣りをと言いかけたが、紫桜の”いらない”という視線をすぐに感じとり、笑顔で低頭するに留まった。 〈Mr.カコール、ありがとう〉  電話の相手である秘書に、思わずお礼を言ってしまう紫桜。 《そろそろ限界かと思い、お電話させて頂きました。近くに控えていますがこの後はいかがなさいますか。もしお時間が余っていらっしゃるようでしたら、マリアージュフレールやクスミティーに行かれてはどうでしょうか》  有能過ぎる第三秘書に関心しつつ、葉琉とどうにかしてまた一緒に住みたい紫桜はその提案にすぐさま乗った。 〈迎えに来てくれ。Mr.カコールには葉琉へのプレゼント選びを手伝ってほしいんだが、いいか?〉 《私めでよければ喜んでお手伝い致します》  言い終わると同時に紫桜の目の前に黒塗りのベンツが静かに滑り込んでくる。防弾仕様で要人警護にうってつけのこの車は、某王宮でも採用されている車だ。 〈今回の件が終わり次第、エミリアとは手を切ることにした〉 〈その方がよろしいかと存じます。良い噂をあまり聞かない方ですので〉  笑顔で車を走らせるMr.カコール。穏やかで綺麗な発音のフランス語だが、内容はかなり辛辣的だ。 〈まずはマリアージュフレールの本店に向かっております。ですが、葉琉様はクスミティーの方がお好きかもしれません〉  苦笑しながらいうMr.カコール。 〈クスミティーのルイボスやホワイトティー辺りが好きそうだな〉 〈ええ。ですが、マリアージュフレールのマルコポーロやダージリンもお好きそうですから〉 〈なら、その2つは店舗で買っていくか〉  エミリアのせいで不機嫌になっていた紫桜だが、葉琉へのお土産を選ぶという何よりも楽しい作業に口角が緩んでいた。 ーーーーーーー 一応付けたR15です んー、どうしよ...

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