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      第49話

 葉琉が入院した翌日。パリではLemonNier主催のパーティが開かれていた。招待されたのはヨーロッパで権力がある企業の社長や重役。財政界の大御所や世界各国の投資家たち。さらにはヨーロッパの王候貴族や由緒正しい血筋だらけだった。 〈Mr.七々扇、まさかこんなところでお会いできるとは!〉  参加するという前情報がなかったからか、紫桜の目の前に来た大柄な男性は大層驚いたようで両手を広げて目を見開いている。 〈お久しぶりです、Mr.セジウィッグ〉  紫桜の本心としては握手をしたくないどころか、親しい者同士の挨拶である抱きつく行為など論外。しかし今拒否するわけにはいかない。見事な笑みを張り付け社長らしく耐えた。心の中で”手元に葉琉が戻ったら絶対に抱きつく”と強く決めて。 〈しかし珍しいですな。Mr.七々扇がいらっしゃるパーティではないでしょう〉 〈ええ。今日はたまたまですよ。もうお会いすることはないでしょうし〉  ここでは会わないだろう。と匂わせるとセジウィッグ社長は気持ち悪いニヤリとした笑みを浮かべる。本当に隠すことが苦手な人だ。苦手というか、隠すということを一切しないバカだが。 〈よければ娘に会っていってください。いつかは結婚する相手ですからな〉  上機嫌で娘だけ置きその場を去っていくセジウィッグ社長。残ったのは前にオフィスまでやって来て葉琉を不安にさせた張本人だ。 「お久しぶりですわ、七々扇様。いえ、紫桜様とお呼びした方がよろしいかしら?」 「お久しぶりです、美麗嬢。七々扇のままでお願いします」 「あら、つれませんわね。いつかは結婚する仲ですのよ?それは避けられない事実ですわ」  会社を大きくするならね。   言葉にはしないがそう付け加える美麗嬢。自信ありげにニヤリと笑うその姿はさっきまでここにいたデブと同じ表情で気持ち悪い。 「そうだ、よければこの後バーにでも行きません?もちろん、紫桜様のお部屋でも構いませんのよ?」 「今日は知人に会いに行きますので、遠慮させていただきたい」 「では私も一緒に参りますわ。婚約者として」  最後の台詞に笑みが一瞬凍る紫桜。遠くで見ていたエヴラールがリーヌスを連れてこちらに来る姿が視界に入った。美麗嬢には気づかれなかったが、苦笑しているエヴラールの表情を見るにキレかけたことがバレたようだ。 〈これはこれはレディセジウィッグ。相変わらずだね〉 〈あら、エヴラール様。お褒めいただき光栄ですわ〉 〈はは。相変わらず臭いねって言ったんだけど〉  会場が一瞬にしてシン...となる。ニコニコと変わらぬ笑みを浮かべるエヴラールと、侮辱されて固まってしまった美麗嬢。エヴラールに腰を抱かれて逃げることのできないリーヌスは昨日知り合ったばかりとはいえ、夫が信頼している紫桜に助けを求める視線を送る。  しかし紫桜はさっきまでの笑みを黒いものへと変え、エヴラールと同じ立ち位置にいた。 〈ルモニエ社長!娘を侮辱するとは一体何様だね!〉    自分よりも圧倒的に年下の見た目優男のエヴラールにデップリと太った体で詰め寄るセジウィッグ社長。2人の娘同様、香水が臭い。 〈いや、愛する妻がいる男に自分の娘を差し出して会社を乗っ取ろうとする輩に、敬意なんてはらえないからね〉 〈き、貴様...っ!〉  相変わらずドストレートにものをいう。 〈お集まりの皆様!この場を借りてひとつご報告があります。この度ルモニエはセジウィッグとは全面的に手を切り、こちらにいるNIIG七々扇社長と取引する運びとなりました〉 〈な、なんだとっ!!〉 〈これまでもいくつか条件の悪い取引をしてきましたが、それでも利益の方が上回っていたから。ですが、NIIGとはセジウィッグと同じ、いえ、それ以上の取引が可能となります。これまで以上に発展していくルモニエをここにお約束します〉  満面の笑みと堂々とした態度のエヴラール。その横で顔を真っ赤にして怒り心頭のセジウィッグの社長。正反対のこの2人に参加者は困惑しながらも”セジウィッグとは全面的に手を切る”という言葉にざわつく。 〈なぜだ!なぜこのような裏切りを...!〉 〈あなたはやり過ぎた。ただそれだけ〉 〈やり過ぎただとっ!?〉 〈知らないとでも思った?社長のあなたが実は会社の金を横領していたこと。闇オークションでまだ幼い少女を買って性的虐待をした後に殺していたこと。闇カジノで莫大な借金を抱えていること。前々から手を切りたかったけど、今回調べ尽くしてよかったと思っているよ〉 〈な、な、なんのことだ!!!!〉 〈あんたが妻にちょっかいをだそうとしていたことくらい知っているさ。妻が僕から離れないと知ると、娘を差し向けてきた〉  顔を赤くも青くも白くもさせて狼狽えるセジウィッグの社長。隣にいる美麗嬢は実の父を凝視している。 〈まぁあとは警察が調べてくれているから、そっちで喋ってよ〉  エヴラールのその一言で会場に何人もの警察官が入っていくる。令状を突きつけられたセジウィッグの社長はなおも抵抗しているが、力及ばずそのまま消えていった。  残された参加者たちは誰も言葉を発っさない。薄らと笑みを浮かべるエヴラールと紫桜。そんな2人を見てLemonNierもNIIGも安泰だな。と感じたのは数人ではなかったとか。

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